この話は黄龍祭ドラマCDネタです。
ドラマCDを鑑賞してない方には、何のことやらさっぱり解らない内容となっておりますので、
鑑賞の上でお楽しみ下さい。
なお、思いつきと勢いで書いた話なので突っ込みはナシの方向で!←ココ重要
あと、妙に健全風味です。
つか、健全書いたの初めてかも…
OKって方はずずいと下へどうぞ!
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「終わりましたね。勝負は、ついたと思いますが?」
目の前の青年にそう問いかけられて、男は慇懃に一礼した。
「ええ、私の負け、完敗でございます」
「その口調、ずっと変えないつもりですか?」
「この姿を取る以上、私はあくまで幻灯館の執事でございますので」
『ゲーム』は終わったが、己に課したルールを放棄するつもりはない。その頑なさをどう見たのか、青年は微かに笑った。
怒っている風でもないその様子に、男は気に掛かっていたことを口にした。
「一つ、質問してもよろしいでしょうか?」
「…また、カードを当てたら消えて下さいっていうんじゃないでしょうね?」
眉を寄せた青年に、男は首を振ってそれを否定した。
「そのようなことは決して。私は負けました。これ以上はなにもいたしません。ただ、少々疑問に思うことをお聞きしたいだけです」
それは男の本心だった。
負けた以上、これ以上足掻くつもりはない。
ただ、この場から去る前に知りたいことがあるだけだ。
その気持ちを読み取ったのか、青年は眉間の皺を消して答えた。
「俺の答えられる事ならお答えしますよ」
「ありがとうございます」
先に礼を述べて、男は気になっていたことを口にする。
「何故、あのような賭けをお申し出に?皆様、捕らえられたあなた様の姿に酷く驚いていらしたようですが」
「……………」
青年は、何かを考えるような素振りで少しの間黙り込んだが、やがて口を開いた。
「そうですね…。まず、あなたは普通に闘ったとしても、納得してくれそうになかったこと。あなたの目的は、俺たちを倒すことではなかったのでしょう?」
思わぬ指摘に、男は少なからず驚いた。
「あなたは、私の目的にお気づきでいらしたのですか?」
「そうなのかもしれないという予想程度のものですけどね」
その答えに、改めて男は青年を見直した。
最初に青年が自分に逆に『賭け』を申してきた時は随分と傲慢な、そして物を知らない印象を受けたのだが、それはどうやら男の見たて違いだったらしい。
男が自分を賞賛の目で見ている事に気付いたのか、青年は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「外れだったら正直困り果てるところだったんですが、あなたの様子からして、どうやら間違いではなかったらしい」
「ご慧眼痛み入ります」
本気で敬意を表した男に、
「それに…」
と、青年は笑って続けた。
「俺も同じですよ。みんなのことを信じているから、少々大胆な賭けにも出られる。結果の知れたゲームなんてするもんじゃないと思いませんか?俺の賭けに乗った時点で、あなたはもう負けていたんですよ」
その瞳は、長い間色々なものを見てきた男から見ても、揺るがない確かな光を宿している。
「俺がもし、誰かに操られたとしても、みんなは迷わず闘うし、俺達は負けない。賭けは、貴方の負けです。―――さあ、約束通り、みんなを元に戻してもらいましょう」
真に聞きたかった答えを得て、男は深く頭を垂れた。
「かしこまりました」
本来の姿に戻ろうと歪み始めた世界の中で、最後に青年は小さく顔を顰めて聞いた。
「できればこういう試し方はこれっきりにしてもらいたいですね」
「それは、将来に自信がもてないから、ですか?」
笑みを含んだ問いかけを、青年は肩を竦めて否定した。
「まさか。後のフォローが大変だからですよ。これから24人分の苦情を聞かなきゃならないこっちの身にもなって下さい。そんなのは二度とゴメンです」
本気で嫌そうなその口ぶりに、男は初めて笑い声を上げて応じた。
「失礼いたしました。次はもう少し、穏便な方法をとらせていただきます」
次があるのかと顔を顰めた青年に、男はゆっくりと片手を上げた。
「お詫び代わりにひとつ、贈り物をいたしましょう。みなさんで楽しんで下さいませ。―――では、ごきげんよう」
「あれ、もしかしてみんな一緒?」
おっかなびっくり開けた扉の先で待っていたのは、窓際で優雅にカップを傾けている龍麻の姿だった。
「ひー、ちゃん?」
「悪いと思ったけど、早く着いちゃったんで先にお茶貰ってるよ。みんなも飲む?あ、揃ったなら乾杯の方がいいかな」
何事もなかったかのような龍麻の様子に、その場にいた全員が、思わず隣の人間と顔を見合わせた。
皆、先刻の意志の感じられない傀儡のような姿の龍麻を覚えている。
それだけに、実際龍麻の無事な姿を見るまでは安心できないと駆け込んできたのだが、当の龍麻はそんな仲間たちの思惑など知らぬ気に穏やかな笑みを浮かべているのだ。
そのあまりの落ち着きぶりに、ほっと息が漏れるのと同時に、全員の表情が緩む。
そこへ、館の管理人が顔を出した。
「皆さんお揃いですか?あ、そうそう、このカード、お返ししておきますね」
そのカードは紛れもなく先刻の『執事』が持っていたのと同じもので、あれが現実に起こったことなのだということの現れでもある。
声もない一同を不思議そうに見て、管理人は龍麻に声を掛けた。
「お飲み物をお持ちしても?」
「お願いします」
苦笑を浮かべた龍麻が頷き、管理人は扉の向こうに消える。それを待ちかねたかのように、全員が龍麻の周りに集まった。
「龍麻、それは…」
皆を代表するように、美里が恐る恐るそのカードを覗き込む。
龍麻は事も無げにそれを晒して見せた。
「これ、お持ち下さいって貰ったんだ。みんなも持ってると思うよ?」
「え、マジかよ?」
「うそ…いつの間に」
いつの間にかそれぞれの手や、服などにカードが挟まれている。
「じゃあ、あれは夢なんかじゃなくって…?」
上目遣いに問いかけた小蒔に、しかし龍麻ははっきりとは答えずに視線を外へと向けた。
「もう一つ、贈り物があるって言ってたけど…もしかしてこれかな?」
テラスつきの大きな窓越しに、ひらりと舞い落ちるものが見える。
窓辺に駆け寄ったマリィが歓声を上げた。
「わぁ…雪だ!」
「まだ、10月ですのに…」
「道理で寒いわけだぜ。異常気象ってやつか?」
「初めて見たよ、こんな時期の雪!」
灰色の街に降りてくる雪は、まるで地の穢れを覆い隠すように、次々と音もなく積もってゆく。
「お待たせしました」
管理人が、大きなワゴンにグラスや料理を満載して入ってくる。
龍麻は、運ばれてきたグラスを一つ取り上げると、花が咲くようににこりと笑った。
「色々言いたいことはあるだろうけど、とりあえず、乾杯しない?5年ぶりの、再会に」
思わず惹きつけられるその笑顔は、5年前に彼らが信じたものと変わらない、穏やかで強いものだった。
「ひーちゃん」
掛けられた声に、龍麻は苦笑に近い笑みを漏らした。
賑やかな室内からテラスに向かったのを何時の間に見とがめたのか、龍麻が外に出ようとしたのを見計らったかのようなタイミングである。
ずっと見ていたんじゃないだろうなと思いつつも、龍麻はその疑問は顔に出さずに振り返った。
「京一」
龍麻の手にあるグラスを見て、京一はちょっと笑って言った。
「雪見酒か?」
そう言う京一の手にも琥珀色に揺れるグラスがある。龍麻もまた笑い返して答えた。
「まぁね。もう止んじゃったけど、綺麗だろ?」
ガラス戸を押し開けると、外はやはり寒かった。
雪は意外なほど長く降ったが、今は止んでいる。白い化粧をした庭を暫く二人して黙って見下ろしていたが、そのうち京一が口を開いた。
「お前、あのじいさんに何された?」
「何をって?」
わからぬ振りで聞き返すと、京一は呆れたように息を吐く。
「あのな。お前があんなに簡単に支配されるようなタマかよ。なんでああいう事態になったのか、それを穏便に聞いてるうちに答えろ、つってんだよ」
凄みを籠めた言葉に、龍麻はくすりと笑ってからかうように言った。
「あ、酷ぇ。それって脅迫?」
「茶化すな。ったく、先に行かせるんじゃなかったぜ」
憮然とした顔で言い返され、龍麻は小さく息を吐いた。
これは、きちんと話さなければ納得してくれない顔である。
短い付き合いではない。顔を見ただけで互いの言いたいことを読み取れる仲では、隠し事は極めて難しかった。
「ちょっとした賭けをしたんだよ」
「賭け?あの、カード当てたら…って奴じゃなくて?」
不審そうに眉を上げる京一に、龍麻は頷いてみせる。
「そう。俺が抵抗せずにあの人に『操られる』代わりに、その状態から一度でもあの人の思惑を外せたら無条件で俺たちを解放してくれ、ってね」
京一は思いっきり顔を顰めた。
「……お前な。無抵抗なんて、なんでそんな馬鹿なことを」
「そうか?圧倒的有利な賭けだったと思ってるけど?」
「………………」
苦虫を噛み潰したような顔の京一に、龍麻は苦笑するしかない。
「仕方ないだろ?まさかあの人と本気で喧嘩するわけにもいかないし…」
京一は少し驚いたように目を見開いた。
「喧嘩するわけにはいかないって…お前、あのじいさんがなんだったのか、知ってるのか?」
「はっきりとは聞かなかったけどね。だから当たってるかどうかは謎なんだけど…」
そこで言葉を切った龍麻は、続きを促す眼差しにあくまで予想だと断った上で続けた。
「この街、かな」
「なに…?」
「この『東京』の意識の集合体というか、精霊というか…そんな感じ?俺もうまく言えないけど」
はっきりと口に出して言葉にはしにくい。
けれど、秩序と混沌を併せ持つその空気に、龍麻は確かにこの街と同質なものを見たのだ。
「つまり、あの時俺達が護りたかったもの、かな?全部じゃないけど、その欠片」
龍麻の拙い説明を聞いた京一は、グラスの酒を一口含むと苦々しい溜息を零した。
「なんでそんなもんが俺たちに襲いかかってくるんだよ?」
「うーん、これも予想だけど、多分、試したかったんじゃないかな、と」
「試す?」
グラスを傾けながら、龍麻は独り言のような小声で呟いた。
「そう。試験みたいなものかな?五年前と同じあの状況に俺たちを追い込んで、今でもまだ闘えるのかどうかを、知りたかったんじゃないかと思う。あの時と今は全然状況は違うけど、それでもなお覚悟は捨てずにいるのか。そんなことを、もう一度試されてるみたいに感じたよ」
「…………なんで今頃そんなことを」
当然の疑問に、龍麻は小さく肩を上げてみせる。
「さぁね。それこそ、本人にでもきいてみないと、正確なところはわからないけど。でも、俺たちがあの人の試験に合格したのは確かみたいだ」
「合格、ねぇ…」
「まぁ、次はもう少し穏当な手段でやってくれって頼んではあるから」
そりゃ当然だなと頷きかけて、京一はぎょっと龍麻を見た。
「って、待て!次があるのか!」
「らしいよ?」
「………………ちっ」
京一は舌打ちして頭をがりがりと掻くと、吐き出すように言った。
「―――あのな。俺は、こういうのはごめんだ」
「それは俺もだよ。物騒にも程がある」
何年か毎に柳生の幻影を見るのは遠慮したいよなと嘆く龍麻に対し、京一は乱暴に首を振った。
「そっちじゃない。そうじゃなくて、お前がこういう選択をするのはごめんだ、つってるんだよ」
言うと思った、と、龍麻は苦笑しながらも京一の視線を受け止めて返した。
「…俺としては、これ以上はない最良の選択をしたと思ってるけど?」
「……………」
「みんなが俺を助けてくれるのは解ってた。だから、ああいう形にした方が長引かずに済むと思ったんだ。実際、あの人は俺達の『逆襲』に物凄く驚いたみたいだしね」
「………」
「あの人は斃すべき相手じゃなかった。けど、大人しく求めに応じて闘ってたら、どうなるかわからない。だから、最善を模索した結果、ああするのが一番だと思ったんだ。それでも、駄目か?」
龍麻にとっては、先刻のように茶化しているのではない、真摯な言葉だったのだが、これでは京一は納得しないだろうなということも予想がついてしまう。
案の定、京一は苦い顔つきでもう一度首を振った。
「確かに…それはそうかも知れねぇ。頭ではわかってっけどよ…」
言いにくそうに口元を曲げた京一は、言葉を探すように口を閉じたが、結局面倒になったのか、面倒くせぇと喚いて吠えた。
「ああ、もう!理屈じゃねぇから仕方ねぇ。ともかく!俺はな、お前が操られる所なんざ見たくねぇんだよ!気分悪ィったらねぇから!」
「あのな、京一…」
口を挟もうとした龍麻を遮って、
「賢いやり方とか、手っ取り早い方法ってのはわかる。けど、それと感情は別モンだろ?不意打ちであんなもん見せつけられるこっちの身にもなってみろ!最悪どころの話じゃねぇっての!」
一気にまくし立てた京一は、最後にじろりと龍麻を睨んだ。
「とにかく、次があるなら尚更却下だ。今度やりやがったら、俺にだって考えがあるからな………ってお前、何笑ってんだよ」
「ごめん、ちょっと、思い出した。―――お前も、変わってないよな。言ってることが、5年前とちっとも変わらない」
あの時―――最後の決戦に向かうあの夜も、京一はマリアとの闘いを経て揺らいでいた龍麻に、前を見ることを思い出させてくれた。
「変わってたまるか」
「だろうな。お前、そういうところは本当に頑固だから」
そう言って笑うと、龍麻は憮然としたままの京一のグラスに軽く己のグラスをあわせた。
「お前がそんなだから、俺は安心していられるんだよ」
龍麻はちらりと己の手の中にある二枚のカードに目をやった。
『世界』と『愚者』。
二枚のカードは、それだけ迷いも多いであろう龍麻自身の道を示しているようにも思えた。
だが、変わらないものを信じ続けていられる限り、龍麻には道に迷わない自信があった。
例えば、理屈ではなく本能で、己が身を案じてくれるこの相棒のような。
「んだよ、それ?」
「いいからいいから。酒、なくなってるぞ?」
「よくないだろが。もうあんな馬鹿はしないって約束しろ」
「んー、どうかな?またやるかも」
「龍麻!」
「冗談だよ。さ、冷える前に戻ろうぜ」
龍麻は笑いながら京一の手を取ると、賑やかな声の響く室内に戻っていった。
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