| それは、こんな一言で始まった。 「なぁ・・・オッキー」 「なんだ、たんたん」 清々しい目覚めを迎えた朝。 たんたんこと緋勇龍斗と、オッキーこと風祭奥継は仲良く並んで井戸の縁で顔を洗っていた。 ついでに朝の習慣である髭剃りも忘れない。 二人してカミソリ手に髭を剃っている時に、龍斗が自分のもつカミソリを見つめながらぼそっと呟く。 「あのさー・・・あの九桐の髪ってさ、やっぱり剃ってるのかな?」 「はぁ?」 ナニを突然いいだすんだ、この馬鹿。 思わず風祭は心の中でつっこみをいれる。口にしなかったのは、ただ単にまだ髭を剃っている途中であまり口を動かすと切りそうで恐かったからだ(・・・髭を剃る手を止めればいいだけの話だがその事には気付かない)。 「オッキーは気にならないか?九桐の頭っていつ見てもすっごい綺麗に剃ってるからさ」 「気にした事ない」 馬鹿な事を言い出すのはいつものことだと風祭は龍斗の相手をするのをやめて顔をもう一度洗う。 そんなつれない態度の風祭を、龍斗は不満そうに見る。髭を剃る手はとまったままだ。 「俺は凄い気になる。やっぱり九桐はまだ若いし朝になったらそれなりに生えてると思うんだよ。まさか天然であんなに綺麗だなんて事は・・・」 ない。 ないと信じたい。 思わず九桐の輝く頭と輝く白い歯がこぼれる笑顔を思いだして、龍斗は心の中で思う。 (それとも、あの歳でハゲになるくらい苦労したのかも・・・) 見かけによらず、苦労人なんだろうか。 そう思うと、思わず目頭が熱くなる。 そんな龍斗の態度に気付かず。 「そんなに気になるなら、見にいきゃいーじゃん」 風祭は、その言葉を軽く言った。 別に深い意味もなかった。九桐の頭の事など気にした事などないし、どうでもいい。それより、今日の朝ご飯が何かと言うほうがよっぽど重要だった。 これがあんな事態を目撃するきっかけになるとは、風祭だって思ってもみなかった。 「あっ、そうか!よし、これから行こう、オッキー」 「は?」 まだ顔に髭剃り粉をつけたままで、九桐の所に今にも飛んでいきそうな龍斗を風祭は慌てて止める。 「いいから、顔洗え!」 「ええ?だって早く行かないと九桐が剃り終わってたらどーするんだよ?」 確かめたいのは、九桐が剃っているのか剃っていないのか。 もし剃っているのなら、早く行かなければ現場を見逃すかもしれない。 「お前、今の自分の状態わかってるのか?そんな格好でうろつくと桔梗に怒られるだろう!」 顔半分に髭剃り粉をつけたままでうろつけば、怒られて当然だ。ようやく今の自分の現状を思いだした龍斗は、慌てて髭剃りを再開する。 「それに!気になるんだったらお前一人でいけよッ。俺は興味ないからな!」 「うーん、やっぱりここに来てないって事は、部屋で剃ってるのかなぁ。そーいえば、ここで九桐にあう事ないもんなぁ」 「いいから聞けよ、俺の話・・・」 風祭の呟きは、当然龍斗の耳に入っておらず。 なんだかんだといいながらも、付き合いの良い風祭が龍斗と一緒に九桐の部屋へ行くのはすぐその後の事となる。 * * * 息を潜めて、九桐の部屋の前へと何故か匍匐前進で進む二人。気配を消すことも忘れない。 わざわざ隠れずとも声をかけて聞けば早いと風祭は思うのだが、龍斗は九桐には内密で事を確かめたいらしい。 「よし!」 何が良しなんだ、と風祭がツッコミ暇なく、九桐の部屋の障子をそっと少し開ける龍斗。行儀は悪いがそこから覗く龍斗に、ここまで来たら・・・と風祭も龍斗の顔の上からそっと九桐の部屋を覗く。 「あ、丁度いい感じじゃないか?」 そっと龍斗が小声で囁く。 丁度いい感じ、と言うのは九桐が丁度カミソリを手にしている所だったからだ。 「やっぱり剃ってるんだ!」 「いや、あれ髭そってるんじゃねーか?」 冷静な風祭の言葉通り、九桐は髭を剃っている所だった。 「んじ、次だ!」 龍斗は、自分の中の「九桐、苦労しすぎで若ハゲ説」が違うと言う事を証明したいが為に必至になっている。 「っておい、たんたん、隠れるぞ!」 その時風祭の耳に、先ほど自分たちが来た方向から誰かの足音が聞こえた。 当然それは龍斗にも届いている。 二人無言で足音とは反対の暗い廊下の隅に隠れる。障子を閉めるのも忘れない。 さすがに覗き見をしてるこんな姿を見られたくないのは二人とも同じだ。 「尚雲、入るぞ」 「若。どうぞ」 足音の持ち主は天戒だったらしく、二人の声と障子の開く音とそうして閉まる音が二人の所まで聞こえてきた。 (オヤカタ様だ) (うん。さすがに今日はもう無理だろ、行こうぜたんたん) そう目配せしあい、二人が九桐の部屋の前をまた匍匐前進して自分達の部屋に戻ろうとした時。 「ふむ・・・もしかして朝の支度の邪魔をしたのか?」 「いいえ、もう後は頭を少し剃るだけでしたから・・・」 その九桐の言葉に龍斗が止まる。龍斗が止まった事に気付いて風祭も止まる。 (おい、たんたん!何してるんだ、行くぞ!) (聞いたか?やっぱり剃ってるんだ!) 若ハゲじゃなかったんだ! それが嬉しくて思わず龍斗は心の中で万歳三唱をした。 「・・・ふむ、なかなか器用だな」 「あの・・・若。そんなにじっと見つめられても困るんですが」 「どれ、俺にもやらせてくれ」 「は?」 九桐の心底驚いた声。 動かない龍斗の耳にも、龍斗にあわせて止まっていた風祭の耳にも当然二人の会話は聞こえてきている。 (やらせてくれ・・・って) (お屋形様・・・) 突然そんな事を言われた九桐の方はたまったものではないだろう、なんとか思いとどめようとあれこれ言っているが、すでにその気になっている天戒をどうやら止められなかったらしい。 カミソリを取られて観念したらしい九桐に、思わずこの先の展開が気になって、九桐の部屋の前を動けない二人。 「大丈夫だ、俺だって毎日髭を剃っているぞ」 「いや・・・そういう問題じゃ・・・」 ((ないです、お屋形様・・・)) 部屋の外で、九桐と同時に同じ事を心の中でつっこむ二人。 「よし、剃るぞ」 意気揚々、自信満々に天戒が言う。 「・・・お願いします」 九桐の声は、天戒とは正反対に苦渋に満ちていた。 何故、どうして自分が今こんな目にあっているのかわからない。そう言いたげな九桐の声に、思わず龍斗も風祭も同情をしてしまう。 (九桐・・・) 君の勇姿は忘れない。 二人は心に固く誓い合った。 九桐はやはりそんな二人の心など知らず、天戒に詳しく頭の剃り方(・・・もないだろうが)を教えている。こうなったら、いかに傷を浅くするかに重点を置いたようだ。 「・・・それで、そっと優しく動かしてください」 「わかった、そっと優しくだな」 さすがにカミソリを手にして人の頭など剃った事ないだろう天戒の声も神妙になってくる。 「・・・」 「・・・」 固唾をのんで動向をうかがう二人にも、中の緊張が伝わってきた。 微かにカミソリが動いて毛を剃っている音がする。 ・・・ような気がする、外の二人。 部屋の中を覗けばいいのだろうが、それも何故か憚られて二人廊下に匍匐前進途中で固まっている。 そうして。 「む・・・?」 「あ・・・」 部屋の中から二人の声が聞こえて、しばしの沈黙が降りた。 (?) (どーしたんだ?) 「すっ、済まない、尚雲。血が・・・」 慌てて謝る天戒の声と。 「・・・いいです、若は初めてだったんだし・・・」 何もかもを諦めて受け入れた九桐の声に。 二人は何が起こったかを察した。 「痛くはなかったか?」 「大丈夫です。それより若の方は?手など切ってないでしょうね?」 「俺は大丈夫だ・・・。すまない、尚雲」 「過ぎてしまった事は仕方がない。それに、初めてでここまで出来たのなら上出来です。あとは俺がしますから・・・」 「いや、こうなってしまったのも俺のせいだ。こうなったからには責任を持って最後まで・・・」 「いや、いいです、ここから先は自分で出来ますっ」 今度こそ必至で抵抗する九桐と責任を取ると言って聞かない天戒。 その外で、九桐の心境を思いやって今度こそ目頭を熱くする二人。 (九桐ってさ・・・イイ奴だよね) (ああ) しみじみ頷きあう二人。 中の二人はまだ問答を続けていた。 「いや、俺にやらせてくれっ」 「いいえ、本当に・・・」 「しかしっ」 「やれやれ・・・」 先に折れるのはやはり九桐で。 「仕方のない人だ」 その九桐の言葉が、今までと少しトーンが違っていて廊下で二人は何故か赤くなる。 (な、なんか・・・今の・・・) (・・・) (・・・い、行こうか) (お、おうッ、行こうぜッ) 心の中でこの後の九桐の事を思うと少し後ろ髪を引かれる思いだが、ここにいても(何故か非常に)いたたまれないだけだと判断した二人は、音を立てずに匍匐前進を再開し、九桐の部屋を通り過ぎた。 そうして。 元いた井戸に戻った二人は、先ほどのやりとりを反芻して言葉少なく見るとはなしに井戸を見つめている。 「・・・結局さ・・・」 先に口を開いたのは龍斗の方。 「オヤカタ様ってさ・・・」 「うん・・・」 「九桐、大好きなんだよね」 「だな・・・」 どこかしみじみと呟く龍斗と、風祭。 「なんだかんだ言って、この村でオヤカタ様が一番信用して信頼してるのって、やっぱり九桐なんだろうなぁ」 「・・・」 「・・・九桐もきっとそうなんだろうし」 「・・・そうだな」 九桐のあの『仕方のない人だ』と言った口調を思いだして、二人やっぱり何故だか赤面する。 「結局あの二人って相思相愛なんだよ・・・きっと」 「それは・・・」 言葉が違うんじゃないか、と言いかけて風祭はやめた。 (・・・) あんな九桐の口調を思い出すと、違うとは言い切れないような気がしてきたから。 「・・・羨ましいかな、少し」 ぽつんと呟いた龍斗の言葉が、凄く寂しそうに聞こえて風祭は思わず龍斗の顔を盗み見る。 その顔は普段と変わらず微笑みを湛えてはいたが、瞳が寂しそうに見えて。 思わず、慰めたくなったりした自分の気持ちに、風祭は慌てる。 (な、なんで、俺がこいつの事なぐさめねーといけねーんだ!) おかしいと自分でも思う。 思うのだが、やっぱり寂しそうに見える龍斗に。 「ちっ、たんたんには俺がいるだろーが」 風祭が、渋々(・・・何かに負けた気がするのだ)そう言えば。 龍斗は驚いて一瞬目を見開いて、それから本当に嬉しそうに笑った。 (くそーっくそーっ) 何故かその笑顔を見て赤くなった自分に腹を立てて、視線を逸らす風祭と。 思いがけない風祭の言葉が、本当に嬉しかった龍斗は。 しばらくそのまま井戸の側でたたずんで、朝ご飯の時間になっても現れない二人を心配して探しに来た桔梗に怒られる事となる。 * * * 追伸。 「・・・九桐・・・その頭はどうしちまったんだい?」 珍しく頭に手ぬぐいなどを巻いている九桐を見て、不思議そうに桔梗が訪ねる。 「いや・・・少しな」 その理由を知っている者三名は、九桐の頭から視線を――天戒は申し訳なさそうに下に、龍斗と風祭はあらぬほうに――そっと外した。 「? みんな今日はどうしちまったんだい?」 一人蚊帳の外な桔梗の謎に答える者は、誰一人としていなかった。 |
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| うふふふふふ…雪ちゃんそそのかしてゲット第二弾!!←をい 最近イチオシの九桐&風祭がセットでお目見えですよお客さん!!何者や、自分… 元々はICQでのなにげなーい一言が元でした(笑) 曰く、『九桐の頭は一体どうやってお手入れしているのか!?』 結果、こんな素敵な話が出来上がりましたvv ついでに御屋形様が髪を剃ってるって余計な事言ったのも私です(笑) 元々は天主ベースで書かれるはずだったのに、風主+九桐天戒臭いのは 3600HITを踏みつけたのを良い事に、雪ちゃんに無理矢理『風主にしてvv』と強要したからです(笑) いや、最近風主マイブームで…描いて貰って幸せです〜vvありがとね、雪ちゃん!! とってもかわいい雪ちゃんのサイトへはこちらから〜vv |