「あー、駄目だ。やっぱ合わねぇ」
 焼きそばパンを片手にそれを囓ることも忘れて、京一は反対の手に持ったパックを睨み付けている。
 その様子を眺めつつ黙々と食事をしていた龍麻は、コロッケパンの最後の欠片を飲み込むと、固まった京一の腕を軽く突っついた。
「いくら睨んでも、中身が変わる訳じゃないだろ?飲んじまえば一緒。さっさと片付けないと、次は生物だぞ」
 それは純粋な親切心からの忠告だったのだが、京一にはそれが別の意味に聞こえたらしい。
「ひーちゃんはいいよな。自分だけしっかりコーヒー牛乳確保してよぉ」
 据わった目つきで睨まれて、龍麻は軽く肩を竦めた。
「コーヒー牛乳といちご牛乳を間違えたのは京一で、それに気づかずに屋上まで来たのも京一。引き返して買い直すのが面倒だって言ったのも京一。俺が恨まれる筋合いじゃないだろ?」
「うう…」
 反論できない京一は、拗ねたように口を尖らせて黙り込んでしまう。
 その様子がおかしくて、龍麻はこれみがよしに手にしたパックのストローを銜えた。
「ま、たまにはいちご牛乳もいいだろ?気分が変わってさ」
 その瞬間、京一の目がきらりと光った。
「…なら、ひーちゃんも味見してみろよ。ほら、交換」
 パックに伸びた手を払ったのは殆ど条件反射のようなものだった。こういう場面での京一の素早さは目を見張るものがあるのだが、龍麻にもこの展開は読めていた。
「遠慮しとく!」
「そう言わずに…って、逃げるなっ!」
「冗談!逃げるに決まってるだろが」
 目にも止まらぬ攻防が何度か繰り返され、龍麻のパックを奪えないまま再び動きを止めた京一は、何を思ったか、自分の持つパックのストローを銜えた。
 諦めたのかと龍麻が思った次の瞬間、京一の顔は目の前にあった。
「ちょっと…」
 避ける間もなく、言葉を封じられる。
 唇を割って入り込んできた液体は、酷く甘い味がした。舌の上に残っていたコーヒー牛乳の甘さと混じって、甘ったるさが倍増したような気もする。
 一通り甘さを交換して唇が離れていくと、龍麻は溜息混じりの声を上げた。
「あのなぁ…。ガッコではこーゆーのはやんな、つってるだろ?」
 呆れ顔の龍麻に、京一は悪びれる風もなく手にしたパックを掲げて見せた。
「味見。甘いだろ?」
「無茶苦茶甘い」
 憮然と言い切る龍麻に、京一はうんうんと頷いた。
「だよな?俺もこの甘さはやなんだけどよ…」
 そこで言葉を切って、何故か京一はにっと笑った。
「でも、ひーちゃんとこうやって飲むのはいいかもな」
 その笑みに気を取られた一瞬に、京一の顔がぱっと近づき、暖かいものが口の端を掠めた。
 唇に残っていた雫を舐め取られたのだと気づいたのは、顔が離れた後のことだった。
「……………っっ!お前は犬かっ!」
 怒鳴りつけてばっと身を離しても、赤くなった顔は隠せなかったらしく、京一は楽しげに尋ねてくる。
「悪くねぇって、思わねぇ?」
「…知るか」
 照れくさくなって視線を逸らすと、くくっと京一が笑う声が聞こえた。
 次の瞬間、ばっと伸びてきた手を龍麻は間一髪で避けた。
「おっと!」
「ちっ、気がついたか」
 口惜しそうに舌打ちする京一に、龍麻はにやりと笑ってストローを銜えた。
「交換は遠慮する、つったろ?」
「くそー、あのタイミング、捕まえたと思ったのに!」
「甘い。捕まるもんか」
 本当は『色仕掛け』にちょっと流されそうになったのだが、その辺は黙っておくべきだろう。
「自業自得だ、仕方ないだろ。…けどまぁ」
 龍麻は笑って、京一の頬にそっと手を掛けた。
「口直しなら付き合ってやらなくもない」

 その後、『口直し』が過ぎて危うく午後の授業に遅れそうになり、醍醐と犬神に説教されたものの、互いのパックは綺麗に空になったのだった。


…なんか犬とは全然関係ない話になってますが、一応じゃれ合いってことで…
つーか。
りゆうさま、素敵絵の下にこんなの載せてすいません(汗)

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