これがオールドチェルベニーだっ!

そもそも、チェルベニーって?

日本では、チューバを吹いている人にはおなじみの、チェコの管楽器メーカーです。上のロゴにある通り創立は1842年と、なかなかの伝統を誇っていますね。
チェルベニーは工房設立当初から金管楽器の開発に力を入れていたようで、様々な金管楽器を発明し世に送り出してきました。その中には、現在でも多くの人たちに演奏されているコントラバス・チューバ(いわゆる普通のチューバ。なんと、かの大作曲家ワーグナーの依頼によるものです!)などがあります。
また、金管楽器のためのロータリーバルブを開発したのもチェルベニーなのだそうで、ロンドンのBoosey&Hawksとならび現在の金管楽器の(特に低音金管楽器については)始祖ともいうべき管楽器メーカーなのです。

もっと詳しく知りたい、という方はMackeyさんのホームページをご覧になってみてください。私もこのページから多くの知識を拝借しておりますので。ちなみにMackeyさんもチェルベニーのオールドをお持ちです。1900年代初頭の楽器とのことです。


全体像

基本的なスペックは以下の通りです。
B♭管 4ロータリー レッドブラス ベルクランツ付きです。
ノーラッカーですが、ツヤのある美しい色合いです。
マウスピースレシーバーは、まあ細管というべきでしょうか。規格自体が現在の楽器と全く違うため、正確なことは言えません。
また、B♭管と書きましたが、かなりのハイピッチでして、H管といっても差し支えないと思います。

現代の楽器と見比べると、ある大きな違いにお気づきになると思います。
ロータリーの位置と、そこから伸びる管の向きが現在の楽器と全く逆なのです!
このことによって各管を大きく、かつ緩やかに巻くことが可能となっています。当然、その結果として管体には曲線部分が多くなり、ゆとりのある吹奏感を得られるということに加え、楽器全体の見た目にも非常に美しい印象を与えていると思います。



立体的な構造

現代の楽器は、バルブをマウスピースの反対側に位置したことによって、それぞれのバルブから伸びる管を平面的に設置することが可能となりました。それは、楽器を効率的に大量生産するために必要不可欠なことでした。平面的な構造の楽器は、工業的に生産されたパーツを用いることのできる部分が多いためです。

オールドチェルベニーの場合はというと、ご覧の通り全ての管が立体的に設置されています。緩やかな巻きの管を、コンパクトにまとめることに成功していると言えます。
管の曲線部分は手作業によってしか作ることが出来ないため、このような構造の楽器の作成には、非常に多くの手間がかかってしまうのです。



縦置きロータリーバルブ

左の写真は、楽器を寝かせた状態(ベルは左側)で、一つ上の写真とは反対の方向から撮ったものです。
現代の楽器とは違い、4つのロータリーバルブは「立てた」状態で設置されています。
押しがねを下向きに押すと、真下に付いているS字レバー(これがまた美しい!)が動き、ロータリーバルブを90°回します。現代の楽器の、押しがねを下向きに押すとロータリーが横向きに回る仕組みとは異なります。
ロータリーを縦に設置することによって、S字レバーを短くすることが可能です。そのおかげで、ロータリーレバーを押す感覚は現代の楽器と違い、非常に直線的な感じになります。
また、上の写真では分かりにくいのですが、この楽器のロータリーは1番から4番に向けて、徐々に大きくなっています。
これは、楽器全体の内径を、より円錐状に近づけようという意図があってのものだと考えられます。
こういった点も、この楽器を作ったかつてのチェルベニーの丁寧な仕事振りを思い起こさせてくれますね。



ドラムロータリーと調整ネジ

この楽器のロータリーバルブのバネは、ドラム式の内バネという、今となってはかなりレアなシステムを装備しています。
これはオールドチェルベニー最大の特徴かも知れません。コアな金管楽器ファンにとっては垂涎もののメカニズムであるといえますね。
ドラムロータリーについて簡単に説明すると、現代の楽器が剥き出しのバネでバルブを戻す構造になっているのと違い、ドラムと呼ばれるケースの中に板バネがゼンマイ状に巻かれた構造になっているということになります。
そしてさらにこの楽器には、ゼンマイの巻きを調節することによってバネの戻りの強さを調整できるネジが付いています。左の写真で、各ドラムの間についているネジがそれです。
現代では、このような調整ネジつきのドラムロータリーを搭載した楽器は非常に少なく、私の知る限りではトランペットのMUKとBernt C Meyerくらいしかありません。ドラムロータリーの内部は非常に繊細な構造なのだそうで、このシステムの調整が出来る技術者は世界中探しても数人しか居ないと言われています。



ベルクランツとメダル

ベルの先には、ニッケルシルバー製のクランツ(響き止め)がついています。
写真ではよく分かりませんが、美しいガーランドが彫られています。このガーランドはとても細かく彫られていて、当時の職人の腕のよさと、彼らが一つ一つの楽器にいかに手間をかけていたかということを感じさせてくれます。
メダルには、V.F.Cerveny & Synove と Hradec Kralove CSR という文字が見えます。
前者は、いわゆるCerveny & Sonsということですね。後者は工房があった町の名前と、国名です。このことから、この楽器がチェコスロバキア共産党政権時代に作られたものだということがわかります。
また、メダルの中央には王冠とチューバを描いた盾形のロゴがあり、それを月桂冠が高く掲げているようなデザインとなっています。
メダルの真上に、なにかを貼り付けた痕跡があります。これはおそらく、この楽器のかつての持ち主が所属していたバンドの
ステッカーを貼っていたものと思われます。そういえば、チェコフィルの前チューバ奏者、ヴァーツラフ・ホザ教授も
日本公演の際、自分のチューバのベルに某楽器メーカーのステッカーを貼り付けていましたね。



楽器の裏側

楽器の一番下で、横向きに伸びているのがメインチューニングスライドです。
ウォーターキーにはこれまた味わいのある板バネがついていますが、かなりヘタっています。
管体は、メインチューニングスライド外管を抜けたところからベルの継ぎ目まで一本の管でできています。
太い管の手曲げ作業は非常に力のいるものなのだそうで、金管楽器製作のハイライトとも言える部分なのですが、このようなオーバルタイプの楽器の場合、曲線でありながら場所によって曲げ具合が異なるということで、最も難易度が高いといわれています。
この楽器の場合、メインチューニング管を本体の裏側に、かつ横向きに配置したことにより、現代のオーバルタイプの楽器と比べて1番管が長い構造になっています。
こういった点からも、かつての職人たちの高い技術力がしのばれます。



結論

初めて見たときからベタ惚れでした。ぱっと見の印象が現代の楽器とは全く違うのです。やはり、現代の楽器のほとんどが工業製品であるのに対して、この楽器は明らかに手工芸品にしかない風格を漂わせているのです。
現代のように世界中の工場から同じような楽器が大量生産され、音色や音楽表現の地域ごとの個性が失われつつある状況とは全く無縁な世界がこの楽器の中に存在しているのです。比類のない個性、職人の誇り、最も歴史のあるチューバメーカーとしての自信等々・・・

長い年月を経て磨り減ったバルブの動きや異常に高いピッチ、独特のマウスパイプボアなど様々な問題があるためにこの楽器はあまり実用的とは言えず、今は私の部屋の片隅に大事に飾ってあるだけですが、その強烈な存在感は、現在の楽器製作から音楽界全体に至るまで、実に多くの問題を提起してくれているように思えてなりません。

というわけで(どういうわけじゃ?)、一発キメてみました。

おしまい。



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