テナーチューバとは?
みなさんは左の楽器を見たことがありますか?この楽器を知っていましたか?
「これがテナーチューバという楽器です」と敢えて私は言いません。
テナーチューバとは、右の楽器やそれに似た楽器の総称なのです。
それらに共通点があるとすれば、管の長さとその形状でしょう。
トロンボーンやユーフォニアムと同じ長さでロータリーバルブをつけていて、
そしてこれらの楽器同じ調性(B♭管)なのです。
細かくわけると、いろいろなものがあります。それらについて説明していきましょう。
まず、左の楽器は正確にはバリトン(ドイツバリトン)と呼ばれるものです。
ユーフォニアムよりも硬質なサウンドが特徴で、中細管であることが多いです。
写真の楽器はオーヴァルタイプといい、楽器が全体的に卵状に曲がっているのが特徴です。この他に、私が所有している楽器のようなストレートタイプも存在します。ストレートタイプのほうが使い勝手はいいですが、オーヴァルタイプと比べると若干音色が犠牲になっているような気もします。これは個人的な意見ですが。
このようなタイプでは、よりボアが太く、楽器全体が大きいカイザーバリトンというものもあります。このタイプは楽器が大きいだけあってかなり豊かな音量が出ますが、私が吹いたことのあるカイザーバリトン(マイスターアントン製)は、いい音で演奏することが体力的にかなりキツかったということを記憶しています。
左の写真はテナーホーンと呼ばれる楽器のものです。バリトンやカイザーバリトンとの違いがおわかりになると思います。全体的に管が細めで、ロータリーバルブが3つしかついていません。この他の違いといえば、バリトン・カイザーバリトンのマウスパイプが中細管であるのに対して、テナーホーンのそれは細管です。
管が細く、バルブが3つしか付いていないこの楽器の重量は当然軽く、その奏でるサウンドはとても明るく、やや乾いた感じの音になります。
大勢の中でも埋もれることなく、しっかりと立ち上がった音を出せるこの楽器はまさにメロディ楽器というべきもので、実際ヨーロッパ(特にドイツ・オーストリア)スタイルのブラスバンドでは、バリトン・カイザーバリトンの役割が主に伴奏であるのに対して、テナーホーンはトランペットなどで奏でられるメロディを1オクターブ下でなぞったり、ソロオブリガートを演奏したりと、旋律を担当することがメインであるようです。
左の楽器はいわゆるワーグナーチューバです。上記2つの楽器とは大きな違いがありますね。それは管の巻き方が逆向きであることです。この楽器はホルン奏者がホルンのマウスピースを使用して演奏するという特性のため、バルブ操作を左手で行えるように管を巻いているのです。この楽器は19世紀ドイツのオペラ作曲家ワーグナーが自作のために考案したもので、4本そろえてハーモニーを奏でることがこの楽器の重要な役割です。1本で旋律を奏でることにはまったく向いていません。
4本の内訳は、B♭管2本とF管(下の写真)2本です。大体の場合この4本の下にBB♭管のチューバをつけて、分厚いハーモニーを作り出します。上記のような5声体をスコアに記譜するときに、B♭管をテナーチューバ、F管をバスチューバ、BB♭管をコントラバスチューバと表記します。こういった表記がテナーチューバという言葉の解釈を複雑にしている原因なのですが、テナー、バスといった表記ではこちらがオリジナルなのではないかと思います。
ちなみに、B♭管バスチューバの管長はバリトン、ユーフォニアム、トロンボーンやホルンのB♭管と同一で、F管バスチューバのそれは、いわゆるF管チューバと同一のものです。
日本で「テナーチューバ」という言葉は、バリトン・カイザーバリトンやテナーホーンを指して使われることが多いように思います。よって、このサイトでも、そういった用法に基づいて「テナーチューバ」や「テナチュー」といった言葉を使用しています。
テナーチューバやワーグナーチューバのような楽器は、普段なかなか目にすることはできませんが、オーケストラにおいてはどちらの楽器も、その独特の個性を発揮できる曲目がいくつかあります。
テナーチューバを使用するオーケストラ曲:
R.シュトラウス作曲:交響詩「ドン・キホーテ」→ 「サンチョ・パンサの主題」を軽妙に奏でます。
R.シュトラウス作曲:交響詩「英雄の生涯」→ テナーチューバがオーケストラの響きの幅を広げます。
「英雄の敵の動機」は印象的。
ヤナーチェク作曲:シンフォニエッタ→ バンダ(別働隊)ブラスバンドに2本使われています。冒頭から聞こえてくるテナーチューバ2人の平行五度の響きは強烈!
マーラー作曲:交響曲第7番「夜の歌」→ テナーホーンが指定されています。1楽章のソロが印象的。
ホルスト作曲:組曲「惑星」→ 「火星」のソロが印象的。「天王星」でも頑張ります。イギリスの曲なのでユーフォニアムで演奏されがちですが、テナーチューバのほうが響きの面で効果があがるのではないかと思います。
ムソルグスキー作曲(ラヴェル編曲):
組曲「展覧会の絵」から”ビドロ”→有名なソロです。本来はチューバのパートですが、音が高いためテナーで吹きます。これはユーフォでもいい音がすると思います。
他にはショスタコーヴィチ作曲:バレエ音楽「黄金時代」や、ヴェルディのいくつかのオペラのバンダ(これはボンバルディーノという楽器ですが)やレスピーギ作曲:交響詩「ローマの松」バンダ(こちらはフリコルノ・バッソ)などにテナーチューバが登場します。
ワーグナーチューバは、ワーグナー作曲:楽劇「ニーベルングの指輪」や、ブルックナーの交響曲第7番、第8番、第9番などでその美しいハーモニーを堪能することができます。
