枚方病児保育室の誕生

病児保育誕生の社会背景
　戦後も10年をすぎた昭和30年代はじめ(1955年頃)、世の中は経済の上昇機運もあって国の新しい住宅政策により、住宅公団等の手によって各地にいわゆる「団地」と呼ばれる高層アパート群が排出されるようになりました。モダンさ、利便さが売り物で、入居世帯は若い夫婦と子どもを単位として考えられ、全国各地にいわゆる核家族と呼ばれる新しい世代が誕生しました。初めて本格的な病児保育室が誕生した大阪府枚方市の香里団地（昭和33年）もそのひとつです。
　一方、戦後の新しい教育制度のもとで、男女共学が施行され、国立大学も女子に門戸を開放し、小中高校、大学と男女が机を並べて学ぶ姿が見られるようになりました。こうして学んだ女子学生は、卒業後当然のこととして仕事を持ち、また専門職としてライフワークとしての仕事を続けたいと考えるようになりました。こういう若い世代が結婚し、団地に入居し、２〜３年後には仕事と子育てを両立することの困難さを経験することになります。

香里団地保育所の開設運動と枚方病児保育室の誕生
　昭和35年頃から、仕事を持つ母親たちから団地の中にも保育所を開設して欲しいという要望が出るようになり、若い世代の手で「保育所づくり」の市民運動の機運が盛り上がってきました。大阪府枚方市の香里団地の父母たちは熱心に要望をまとめ、「私たちが保育所を必要とする理由」等を一人ずつ綴り、議会を傍聴し、市当局と交渉を重ねました。戦後の市民運動の台頭です。
　昭和37年(1962年)４月、枚方市は父母の要望をいれる形で、団地内に香里団地保育所を設立、９月からは全市的に乳児保育も開始されました。そのとき、立ち上がった母親の職種は実に様々で、大学の研究者、教師、医師、弁護士、保健婦、看護婦、保母、公務員、会社員といったフルタイムで仕事をしている母親が多く、学び、考える姿勢をあわせ持ち、集団保育を肯定的に捉え、一人一人が熱心に保育に参加する姿勢を持っていました。そして特筆されることは、夫たちがこの運動に積極的に参加していたことです。
　昭和38年には延長保育が実施されました。乳児保育、延長保育が確立するのに続いて、保育所に通所している子どもが病気になったときに、その子を誰がみるかが切実な問題としてテーマに上がるようになりました。父母の会は、昭和41年にホームヘルパー制（パートの保母さんに個人的に依頼し、病児をその家庭でみてもらう）の導入を申し合わせました。しかし個人が個人をみるのには限界があり、永続きせず、本格的な病児保育を望む声が高くなってきました。討議を重ね、「私が病児保育を必要とする理由」の要望書をまとめる等、香里団地保育所の父母の会を中心に地域での運動が再び展開されました。
　昭和44年(1969年)４月、保坂医師の手により団地内の市民病院分院内に枚方病児保育室を開設、父母らの熱心な推進と、一小児科医による集団保育の意義や病児保育の意義と必要性を肯定する立場から、病児保育が開設されることになったのです。半年後、枚方市からの補助もでるようになり、自治体委託として全国で初めての病児保育室の誕生となりました。（以下略）


「新病児保育マニュアル」の入手法は、全国病児保育協議会のＨＰを参考にしてください。