Ever 17
-the out of infinity-

KID
PS2/DC
(Premium Edition: Win/PS2/DC)


 雑誌の紹介記事を見た相方が、「イラストが気に入った」と言って買ったゲームだった。その雑誌の紹介記事に書かれていたストーリーは、それなりに魅力的ではあったが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
 メーカーはKID。数多くのギャルゲーの制作・移植を行っているメーカーだ。
 そのフィルタが、僕に「ちょっと設定に凝ってみただけで、蓋を開けてみればその設定を生かし切れない薄っぺらなシナリオのアドベンチャーゲームなんだろう」という情報を垂れ流してきていた。なまじ、その絵が、相方のみならず僕も「あ、綺麗な絵だな」と思ってしまったからこそ、その認識は強まっていった。
 これを「偏見」と言うのだろう。

 買ってはきたものの、相方はFF11に夢中で、このゲームをプレイしようとはしなかった。僕も取りたてて気にはしなかった。時々、思い出したように「FFばかりやらずに、Ever17やらないの?」と言ってからかう、その程度の扱いのまま月日は流れた。

 2003年の晩夏だっただろうか。PS2で「Ever17 Premium Edition」たるものが発売されることを知った。ストーリーの追加はないものの、CGの追加や、infinityシリーズの新作「Remember 11」の予告編ムービーを収録しているらしい。こうなると貧乏根性が黙っては居なかった。
「おい、プレイもせずに寝かせていたゲームが、追加要素付きで出やがるぞ。なんとしてもそれが出るまでに、Ever17やらないと、なんか損した気になるぞ。やるのだ鷹月!」
 そりゃあもう、真剣そのものだった。どうもこういう部分で、僕は変に焦燥感に駆られる癖がある。

 かくして、尻を叩き始めた十数日後、相方が重い腰を上げてプレイし始めた。

 西暦2017年。海底に建造されたテーマパークを訪れていた主人公は、突然の浸水事故に巻き込まれる。主人公は二人、大学生の「倉成 武」と、記憶を失った「少年」。それ以外の主立った登場人物は全て若い女性。少女と呼ばれる範疇に入るキャラクタも多い。
 浸水事故でテーマパーク内に取り残された登場人物達は、脱出・生存する方法を模索することになる。

 これをギャルゲーと呼ばずして、何と呼べばいいのやら……。
 辟易するような甘っちょろい設定の中、物語は始まる。
 鼻から斜に構えていた僕は、「パッケージに『徐々に失われていく、食料、水、酸素』なんて書いてるけど、それで窮地に陥ってないじゃん。わははは」などと、ツッコミを入れていたものだ。



 ツッコミどころはそれだけだった。いや、他にもあるのだろうけど、そんなことはどうでも良くなっていた。
 確かに表層的な部分では、ギャルゲーの軽さがある。しかし、それは難解かつドラマチックなシナリオを楽しませるための程よい調味料だった。
 二人の主人公のうちどちらかを序盤で選択し、その後は選んだ主人公の視点でプレイしていくのだが、この別々の二人からシナリオを見たときの違和感。
「あれ? どうしてこの女の子は、武を主人公にすると登場しないんだ?」
「この女の子……これは一体、どういう存在なわけ?」
 違和感は謎へと変わる。

 謎が深まっていく。
 謎の虜になっていく。
 謎について、あれこれと論議を交わす僕たちがいる。

「だから、プレイヤーが登場人物を決定した時点から、世界が分岐しているんだよ」
「いや、まるっきり異世界の話なんじゃ?」

 謎を解くためのヒントはストーリー上に散りばめられている。
 全ての謎は最終シナリオで解決され、これがまた難解な構造と目的によって引き起こされた出来事だったのだが……その「目的」は最終シナリオでしか明かされないにせよ、その「手段」、二人の主人公で微妙に物語が異なる理由、それはプレイヤーが推察することができる。ゲーム中で明示されているのはヒントだけ。それを元に、プレイヤーがあれこれと想像を育ませる。そのプロセスが楽しい。
 やられた。謎の虜になり、ストーリーの虜になり、そして登場人物達の虜になっている自分がいる。ギャルゲー、ギャルゲー、とバカにしていた自分が恥ずかしい。
 結局、その「手段」については、僕の推理が的中した。ゲーム中に出てくる要素と、想像した仮定とを積み重ねていった結果、制作スタッフが放り投げた魔球を、僕のバットはなんとか捕らえることができたようだ。
 しかしそれは、物語の舞台構造のからくりを解き明かしただけで、その目的なんてさっぱり分からない。全ては前述したように、最終シナリオで明かされた。満足のいく内容だった。

 素晴らしいSF作品だった。物語に仕掛けられた数々のトリック、その全てが一級品だった。ギャルゲーならではのお約束さえも逆手に取る手腕は絶賛に値するだろう。文章のみならず、グラフィックにも謎を解くための鍵はある。
「気づけるかな?」
 という制作者のほくそ笑みが聞こえて来そうになる。
 最終シナリオをクリアした後で物語を、文章を思い返し、グラフィックモードでCGをじっくり観察する。実に巧妙に、鍵は隠されている。全てを知った後で「なるほど!そうだったのか!」と納得させられる。


 見た目に惑わされてはいけない。
 この作品には、海よりも深い謎がある。


2003/11/12 橋本竜也

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