ただそこに在るということ。
ただ頭を使い困難に立ち向かうこと。
ただ護りたいと想うこと。
そんな純粋で単純な糸を集め、一つの作品へと丹念に織り上げた極上の一作。
icoとはつまり、そんなゲームだ。大げさな演出があるでもなく、ドラマチックなシナリオが展開するのでもない。むしろそういう部分を極力廃しているともいえるだろう。
しかし。
襲いくる影から女の子を護りつつ、仕掛けや障害をクリアしていくというシンプルなゲーム性。それに対しヒントは一切なく、ただプレイヤーの頭脳で道を見いだすしかないというシンプルさ。それを極上の美しさで描きだすグラフィック。光と陰の素晴らしいコントラスト。
そして手を繋ぐ。護るべき女の子の手を繋ぎ、困難に立ち向かう。その姿は気高く、そして強い絆を感じさせる。そこには、なんのいやらしさもない。大人がもう抱かなくなった感情の下に、彼らはしっかりと互いの手を繋ぎあう。モーションキャプチャではなく、プログラミングによって動きを与えられたキャラクタ達の動きは、まさに職人芸の一言に尽きる。
ゲーム中に台詞らしい台詞はほとんどない。最初のプレイでは少女の台詞は一切判らない。それでも、それでもなお、伝わってくる何かがある。護りたいと想わせる何かが、確かにあった。
子供の頃に憧れた、かよわき者を救うヒーロー。
囚われの姫を救いだす勇敢な騎士。
そんな姿が、この作品にはある。
そして台詞が少ないからこそ、少女の台詞が判らないからこそ、少女について自分なりの解釈を巡らせる隙間がある。その隙間を埋めるための素材もたくさんあるだろう。
大作ではない。ハリウッド映画のような豪華さはない。
だが、この作品は極上の作品だ。ただ至高を目指した、孤高の一作だ。「ico」はゲームという大衆文化の中で、素晴らしい芸術を見せてくれた。
そして何より、このゲームはそれでいて面白かった。
これ以上、何を望むことがあろうか。