まぁ、子供っすな。('97/12/31)

 少年は空を見上げてわんわん泣いていた。
「ボク、どうしたん?」
 中年の女性が優しくそう尋ねる。
「家が、家が倒れてくるよおっ!」
 精一杯の声でそう叫び、少年はただ泣き続けた。女性も空を見上げるが、そんな様子はない。
「大丈夫やて。倒れてきやせぇへんって」
 それでも少年は、彼の住むそのマンションが倒れてくることを信じて疑わなかった。

 ども、T-Hash.です。次回はゲームの話とか言っておいてこんなんです。
 これは、僕のおそらく一番古い記憶です。小さい頃に僕が住んでいたマンションは11階建てのマンションでした。決して高級マンションというわけではなく、空間を最大限に利用する為の高層建築物。団地みたいなものです。父の会社の社宅だったのですが、会社の経営難のせいで僕が七歳の頃に出ていくことになりました。物心ついてから数年というごく短い期間でしたが、僕の幼少時の思い出は全てあそこにあります。

 オチを言うと、単に雲が流れるのを見て、マンションが倒れてくると錯覚しただけなんですけどね。でも、生まれて初めて自分の無力さを悟った瞬間でもあります。マンションが倒れてくると判っていながら、ただ泣くことしかできなかった自分に絶望していたように思います。

 他に、小さい頃に見た夢も忘れられません。五歳くらいの頃の夢でしょうか、和風の家で、障子越しに僕のシルエットが見えます。僕は向かいに座っている母と妹に土下座して命乞いをしています。「奴隷になりますから!」と。当時五歳くらいの子供が、夢でそんなことを叫んでるんですよ。
 これが結構なトラウマになっていて、高専を中退するまでの僕にとって母は絶対的恐怖の存在でした。事実、ヒステリー屋で非常に怒りっぽく、事あるごとにはたかれ、怒鳴られて育てられてきました。僕の趣味を奪われ、十代をさんざんに過ごしてきました。今でも嫌いです。結局は中退して就職することで、自分は養われているという劣等感から解放されてその恐怖は消えたのですが、それが母を自殺未遂に追い込む結果となってしまったりもしました。
 他に、初めてボーリングに行った日の夜、自分の指が抜け落ちる夢を見たことも印象に残っています。これも五歳くらいの頃だったでしょうか。

 こんなタイミングでなんですが、この話にオチはありません。ふと思い出しただけです。

1998/01/01 T-Hash.

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