菊乃の執念

「ほれ、ちゃんと歩かないかい」
つんのめりそうになる楓の白い双臀に菊乃の容赦ない平手打ちがまたひとつ跳んだ。
長時間に渡って魂を締め上げられるような淫逆な責め苦を受け続けた楓はその疲れ切った身体を土蔵に運ぶために苦悶しているのであった。
楓の陰核にはおぞましい漆が充血しきった先端を僅かに顔を覗かせるまでに塗り固められ、楓に灼熱の感覚を与え続けている。さらにその部分を締め上げる紐は前を行く小平太に握られ、楓が立ち止まるたびにそれを引かれ、楓を苦悶させるのであった。

「いいかげんに早くお歩きよ。こっちだって暇じゃないんだよ」
また、菊乃に尻を叩かれた楓は涙に汚れた顔で菊乃を振り仰いだ。
「歩けませぬ。どうぞ運んでくださいませ」
「弱音を吐くんじゃないよ。おまえさんだって楽しいんだろう」
菊乃に思い切り乳首を引っ張られた楓は自らの要求を諦め、震える太腿をまた一歩前に踏み出した。しかし、その中ほどに両腕を括られている背中に菊乃の無情の声が突き刺さった。

「今、我侭を言った罰だよ。土蔵に着いたら仙次さん達に唇で御奉仕するんだよ」
鬼のような菊乃の執念は仙次達も舌を巻く程深かった。しかし、難儀を押し付けられた楓は一言も発せず、無残な歩みを続けていた。
素足で庭を歩き、ようやっと土蔵にたどり着いた楓は荒い息を繰り返し、その全身は水を被ったように汗にまみれていた。しかし、怨念の権化と化した菊乃は息も絶え絶えの楓を落下無残にも弄ぼうとしていた。
腰を降ろさせられた楓は大黒柱に縛りつけられると菊乃に哀願の瞳を向けた。

「菊乃様。お願で御座います。もう、許してくださいまし」
薄笑いを浮かべた菊乃は腰を折って楓の顎に手を掛けた。
「そんなに辛いのかい。私にあんなことをしといて許してくれだって、いい加減におしよ」
菊乃は楓の汗と涙に汚れた頬をまた力一杯叩くと勝ち誇ったように立ち上がり、ものすごい形相で疲れ切った楓を睨みつけた。
「仙次さん。今夜は徹底的にこの女をしごくよ。胡座縛りにしておくれ」
楓は分かっているとはいえ菊乃の冷酷さを目のあたりにし諦めたように瞳を伏せた。
やがて、胡座縛りに仕上げられ漆に塗り固められた陰核をはっきりと露呈させ、小刻みに太腿を震わせてる楓の面前に菊乃は膝を折った。

「なあて淫な姿だろうね。秀吉様にお目に掛けたかったよ。お前さんも嫌いじゃないよね。こんなに涎を流しているよ」
菊乃は連続的に刺激を受けているために愛液を泌ませている楓の秘部に手を触れさせた。指を挿入するという暴虐を受けても既に楓の反発する気力は失せている。
「お前さんの匂だよ。嘗めてごらん」
菊乃が嗜虐の喜びに顔を崩して楓の眼前に愛液にまみれた指を近付けても楓は何の抵抗もなく舌を出してその汚れを拭い去るのだった。この地獄の時間が一時でも早く過ぎ去るのを心のなかで念じる楓であった。

「随分素直になったね。それじゃこの場は仙次さんたちにお礼のおしゃぶりをして終りとしようか」
あー疲れ切ったこの身にまだそんな行為を強制するのか。麻のように乱れた頭でふと考えた楓はこの事実が悪夢ではないかと考えるようになっていた。

楓の慟哭

どのくらい時間が経ったのだろうか楓が閉じ込められている土蔵からは時折、苦しげな呻き声が洩れていた。
今は菊乃の姿もなく、蝋燭の炎が揺れる土蔵の中にただ一人柱に縛りつけられている楓だが、相変らず胡座縛りにされているその太腿は痙攣を繰返している。漆を塗り込められた陰核はその露わにされた先端が赤く充血しやるせない感覚を楓に与え続けていた。

「ああー、母上様。か、楓はどうすればよいのですか」
菊乃の徹底的な復讐に遭い自害することを考え始めた楓は既にこの世にいない母、茜に助けを求めた、
信長に捕らわれたことによりその人生を踏みにじられた母、茜。そして、母の人性を引きずるように生れた楓。自分の人生はその母よりも悲惨なまま終るのではないか、朦朧とする意識のなかで考えている楓であった。
土蔵の鍵が開かれる音に楓は身体を固くした。また、鬼とも思える菊乃の情け容赦ない折檻に晒されると思うと生きた心地もしなかった。

「また、相手をしに来てやったよ」
上機嫌な菊乃の声音に楓は思わず身をよじり視線を避けようとした。
「懐かしい人を連れてきたよ。そっぼを向くなんて失礼じやないか」
菊乃の言葉に視線を戻した楓は心臓が張り裂けんばかりの驚愕に見舞われた。
「ひ、姫様、な、なんという」
菊乃の後ろから母親譲りの冴えた表情の茶々姫が顔を覗かせているのを目にし楓は後の言葉が続かない。

「驚いたかい。姫様に楓が折檻されてるといったら是非、御覧になりたいとおっしゃったからお連れしたんだよ」
一五歳になったばかりの姫の眼前にとても晒せる姿ではない。楓は必死の想いで訴える。
「後生でございます。姫様。お引き取りくださいまし」
いきなり楓の頬を菊乃の平手打ちが襲った。
「生意気言うんじゃないよ。私のお客様を追っ払う気かい」
楓に因果を含ませた菊乃は姫を楓の露わに開かれた太腿の前に座らせた。
呼吸を乱しながら必死に姫と視線を反らそうとする楓に対して茶々姫が驚くほど冷静に声を掛けた。

「楓。辛いのでしょうけど耐えるのです。菊乃さんは決して悪い人ではありません。私たち姉妹にもとてもよくしてくれます。楓が歯向えば報いを受けるのは当然です」
騙されている。菊乃は姫が考えるほど善人ではない。喉元まで出掛かった言葉を楓は飲み込んだ。菊乃が耳にすればどんなことをしでかすか考えるのも恐ろしいからだ。
「姫様も折檻を与えてくださいまし。楓も応えると思いますから」
菊乃に細めの筆を渡されても茶々姫はどうしたものかと思案に暮れている、
「その漆に塗り固められた先端を擦ってやればよいのです」
茶々姫が興味深い顔で筆を近付けてくると楓の心からの叫びが口を付いた。

「なりませぬ。女がこんな姿を晒すのがどれほど辛いか姫様に分かりませぬか」
筆を止めた茶々姫の顔が一瞬、こわばった。生来気の強い姫は楓に意見されたと思い込み不愉快な気分になった。
それを見て取った菊乃は楓の背後に廻り柔らかい乳房に手を掛ける。
「姫様。楓は姫様にも意見をしましたよ。心行くまでお仕置なさってくださいまし」
菊乃の言葉を聞いて茶々姫も一歩膝を前に進めた。
「楓。今のお前の言葉、聞き捨てなりませぬ。心行くまで折檻させてもらいます」
「ひ、姫様」
茶々姫の筆がその部分に触れてくると楓は闇をつんざくばかりの叫び声を上げ、胡座縛りにされた太腿をガクガク震わせた。
「そんな大きな声を出すんじゃないよ。みっともないだろう」

菊乃に椰楡され、乳房を意地悪く揉まれても楓の慟哭は止まらなかった。今まで、庇いに庇うために自害を思いとどまったその当人から加えられる暴虐の嵐、楓は情けなさに死んでしまいたいほどだった。
号泣する楓が再び大きな叫び声を上げた。茶々姫が筆をより激しく使い始めたからだ。
「お、お許しを」

泣きながら哀願する楓を無視するかのように茶々姫はまるで新しい遊びを発見したような無邪気な顔で楓を責め続ける。
満面笑みをたたえ、楓の乳房を揉み続ける菊乃は泣き叫びながら許しを乞うその姿を目の辺りにして遂にこの女の全てを征服した気分になっていた。

桔梗登場

もう誰しも眠りに付いた頃、土蔵のなかではついいましがたまで菊乃どころか仙次や小平太それに茶々姫にまで寄ってたかって神経までずたずたにされるような凄じい折檻を甘受していた楓が打ちひしがれたように涙に暮れていた。
相変らず柱に縛りつけている楓を拘束する縄は楓の発散する縄でぐっしょりと汗ばみその受け続けている責め苦の凄じさを物語っている。
(母上、お答えください。楓は生きていても何の価値もないのでしょうか)

茶々姫があからさまに責め手に回った今、楓には生きる対象がなかった。守り抜くと決意した茶々姫に対しては恨みさえ覚えていた。
苦しげな息を吐き、胡座縛りにされている楓は未だに陰核を漆に塗り固められ、その根元をきつく紐で締め上げられている。

舌を噛もうとした楓は既に顎にさえ力が入らなくなっており、それも叶わない。深く溜息を付いた楓の太腿がまた痙攣した。既に下半身の感覚さえ失われ始めた楓は命の火が自然に消えるのを待ち望んでいる。
薄れると思うと覚醒する意識の中で楓は人の声が聞こえた気がして耳をそばだてた。

「姉上」
今度は確かに聞こえた。女の声だ。
「だ、誰か」
必死の思いで返事をした楓に懐かしい声が応えてきた。
「桔梗にございます。助けに参りました。しばらくお待ち下さい」
桔梗に会える。嬉しさにほっとした楓ではあったが自分の惨めな姿を目撃される辛さに頬を歪めるのであった。

天窓からわずかに差し込む月明かりの中を黒装束に身を包んだ桔梗が近付いてきた。
「姉上。大丈夫にございますか」
手を掛けた楓の肩が異様に汗ばんでいるのを知って桔梗は心配した、
「ああ、桔梗、会いたかった」
弱々しい声を出す楓にのっぴきならない状態が迫っていると感じた桔梗はその身を拘束している縄目を解き始める。

「今、楽にして差し上げます、お待ちください」
「珍呑丸、葵はどうした」
「お二人とも余燐寺の住職様にかくまっていただきました」
「ああ、子供たちは無事なのですね」
「はい。しかし、姫様方の行方が知れませぬ」
「姫はこの屋敷のなかに居りまする」
茶々姫達の身を案ずる桔梗を腹立たしく思った楓は冷淡な声を出した。
とにかく二人の子供の無事を知った楓は口を開くのも億劫になっていた。桔梗はようやっと楓の柔肌に食い込んでいる縄目を解き終えた。

楓が荒い息を吐きながら床に倒れ込むと心配して肩に手を掛けた桔梗は月明かりに照らされた楓の股間を見て息を飲んだ。
「姉上。それは…」
楓は長時間にわたり両腕を拘束されていたため両手の自由が効かず、いまだに意地悪い刺激を与え続ける漆を解きほぐすことが出来ない。
「私が逃げようとしたお仕置きを受けているのです」
「とても、人の所業とは思えませぬ。今、楽にして差し上げます」
桔梗の手がその部分に掛かると楓は頬を赤らめた。しかし、この残酷な仕置きは十分すぎるほど楓の心と身体を痛ぶり尽くしていた。

桔梗は懸命になって漆をそぎ落しに掛かった。しかし、暗闇のなかでの作業は難航を究め、楓の甘い身悶えなどで完全に漆を落すことは不可能であった、
「姉上。これ以上はこの場では無理にございます。とにかく逃げましょう」
「私は疲れ切って歩くこともまま成りませぬ。この場で命を絶って欲しい」
楓の自害の決意を耳にした桔梗は悄然とした。

「何をおっしゃいます。私は今、明智家の元家臣達と行動を共にしております。隙あらば秀吉の命を奪うつもりです。姉上にも力を貸していただきたいと」
「無力よ。女だてらに男の真似事をしてこの始末。母とて同じ定め。おまえは争い事を忘れて静かに暮すがよい」
桔梗は牙を抜かれ哀れな女になってしまった楓の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。あれだけ気性の激しかった姉がこんな事を口にするまで落ちぶれたのが不憫でならなかったのだ、楓は妹を諭すように続けた、
「桔梗よ。もう私に兵頭にいた頃の力も気力もありません。だからおまえの手で命を断って欲しい。弟に責められ、守り抜うと決めた姫にまで汚された私は死にたいのだ」
「ひ、姫様にそ、それに兄に」
「ああ、新乃助は生きていた。しかし、秀吉に目を潰され、菊乃に飼われて、今では菊乃の言いなりじゃ」
苦しげに言い放つ楓は肩で息をしている。桔梗は涙ぐみながら楓の白い背を擦り上げる事しか出来なかった。

「あの世で菊乃と茶々姫は呪い続けてやる。ゆめゆめ仇を討とうなどと考えるではない。こんな悲惨な目に遭うのは母と私で充分じゃ」
「姉上」
桔梗は一際、激しく泣き始めた。哀れな姉妹の久々の再開は永遠の別れの時でもあったのだ。
翌朝、土蔵で喉を掻き切られた楓の死体が発見された。

程なくして、菊乃は何者かに誘拐され行方を断ち、翌年、四条の河原で全裸の死体となって発見された。
茶々姫達、勢津姫の忘れがたみの三姉妹は秀吉に引き取られ、後年数奇な運命をたどることになるがそれは遠い先の話、戦国時代は信長を失い一気に収束に向かい始めたのであろうか、哀れで可憐な女たちの物語はここに新なる展開を見せることになる。
戦国無残Wに続く