お紺の哀願

 「さあ、しゃんと歩くんだよ」

 お銀によって背を押されたお紺は土蔵から出ると思わずブルッと身を振るわせた。締め上げられた陰核が外気に触れ、その感触に身震いしたのである。

 素足で土を踏み締めて庭をおぼつかない足取りで歩くお紺の周囲をお銀とお仙が楽しそうに歩いている。いつも通りの風景である。しかし、お紺にとっては急所を締め上げられるという更に屈辱的な思いに打ちのめされながらの歩行であった。

 二階の調教部屋に連れ込まれたお紺は柱に裸身を固定され、おぞましい調教の始まるのを待たされている。ぴったりと閉じ合わされたお紺の太腿が時折、震えを示している。陰核を抉り出され、やるせない感覚を絶え間なく味合わされているお紺の肉体が否応なしに反応を示しているのであった。

 これから、ここにくるであろう花田にお紺は何としてもお咲を解き放つ事を頼むつもりだった。生きる屍、同然の自分に取って唯一つの希望がお咲だった。お咲が解き放たれれば自分はどうなっても構わないと思う、お紺であった。

 廊下にどやどやと多人数の足音が響き、悪党たちが姿を現した。

 お紺の正面にどっかと腰を落とした花田と国光はその哀れっぽい姿態を目にして、薄笑いを浮かべるのであった。

 「相変わらず。綺麗じゃねえか。それにしてもそんなものをはっきり見せられると俺の方が照れちまうぜ」

 花田はそんなことを嘯き、国光と顔を見合わせて笑い声を上げる。

 生まれたままの素っ裸を緊縛された上、陰核を抉り出されると辱めを受けているお紺に対して男たちは嘲笑を浴びせるだけであった。

 「今日からね。女のここを使った芸を覚えさせようとしたんですどね。親分にどうしても頼みたい事があるからってお紺が言うもんだからご足労願ったわけなんですよ」

 お仙の言葉に苦笑いを浮かべた花田はついと立ち上がり、お紺の顎を手に取った。

 「お紺。俺も国光の親分さんも、矢島の葬式に行って帰ってきたばかりなんだ。何を言いたいんだ」

 花田の言葉にお紺は涙を浮かべた黒目がちな目を見開くと小さく口を開く。

 「お、お咲ちゃんを解き放って下さいまし。お紺の最後のお願いでございます」

 「なんだ。また、その話か。お前しつこい奴だな」

 あからさまに不快そうな顔をした花田に対してお紺は尚も言葉を続ける。

 「お、お咲ちゃんを解き放ってくれたら、お紺はどんな辱めを受けても構いません。ですから、どうかお紺の願いを聞き届けて下さいまし」

 お紺が涙をハラハラと流しながら再び頭を下げると花田は困惑したような表情を浮かべ、お仙の方を盗み見るのである。

 「弱ったな。俺も女の涙には弱い方なんだ。お仙が良しと言ってくれれば願いを聞き届けてやってもいいが・・・」

 あらかじめ打ち合わせの通りに花田は話をお仙に振った。しかし、花田の言葉を真に受け、お紺はお仙の方に向き直ると必死の哀訴を始めるのであった。

 「女将さん。お願い致します。お咲ちゃんを救ってやって下さいまし」

 「そうかい、そんなにあの娘を救いたいのかい?お前さんの返答次第によっては考えてあげない事もないけどね」

 片意地悪い笑みを浮かべ、お仙はお紺の裸体を上から下に今一度、見廻すとその締め上げられた乳房を突付いた。

 「何でも言う事を聞きます。二度と楯突いたり致しません。で、ですから・・・」

 お紺は言葉を詰まらせ、お仙に対して何度もを頭を下げるの。お仙は厳しい表情になると股間に垂れ下がる糸を強く引っ張り、口を開いた。

 「それじゃ、お前さんのここを鍛えて、瓶吊り芸を仕込むけど異存は無いだろうね」

 「い、異存はございません。どうぞ、好きになすって下さい」

 お紺はお仙の意地悪い注文をいとも簡単に受け入れた。何を捨ててもお紺はお咲を救わなければと必死になっていた。しかし、悪党たちそんなお紺に対して次々と要求を突きつけてくる。

 「お前さんのここを小指の先くらいに大きくして、重い物を持ち上げられるくらい強くするんだよ。それでもいいのかい?」

 「か、構いません・・・」

 「朝起きてから、夜寝るまで、ずっとそこに糸を巻いて暮らすんだよ」

 「は、はい」

 「夜、寝る前には糸吊りして鍛えるんだよ。いいね?」

 「わ、判りました・・・」

 おぞましい言葉を並べ立てお紺の苦悶する表情を十分に楽しんだお仙は花田の方を向き直ると片目を瞑って見せる。

 「親分。お紺がここまで言うんですから、お咲は解き放つことにしませんか?」

 「うん。良いだろう。お紺、今言った言葉を忘れるんじゃねえぞ」

 花田が立ち上がって声を掛けると国光も続いて口を開いた。

 「お紺、近いうちにまた寄らせて貰う。その時にはその恥掻き芸を見せて貰うからな。それにお前にまだ恨みを返してない奴もいるしな・・・」

 お紺をまた一つやりこめることに成功した二人の親分は高笑いをしながら意気揚々と引き上げていった。残されたお紺には寂寥感が募る。お咲の解放を約束した悪党たちだが果たしてそれが真実なのかお紺には計り知れなかったからだ。

深夜の調教

 「お前も随分と気をやったみたいだな?楽しかっただろう」

 花田は上機嫌になりながら左右に悩ましく揺れるお紺の臀部を手で叩いて声高に笑った。

 「あら、そんなに悦んだんですかい?こんなに澄ました顔をしてるくせに」

 「ああ、そうよ。俺の腰に足を絡みつかせて、親分、もっと激しくなんて甘い声で言うんだぜ」

 お銀の問い掛けに答えた花田の言葉に一同はまた爆笑した。お紺はそんな悪党たち話など聞こえないかのように表情一つ崩さず、まっすぐ前を向いて廊下を歩いている。

 あれから夕刻まで瓶吊り芸の基礎を叩き込まれたお紺であったが空の徳利さえ持ち上げる事が出来なかった。更に花田の肉の相手をさせられ、お紺は精も根も尽き果てた状態であった。

 縄尻を新吉に握られ歩を進めるお紺は濡れ縁から素足のまま庭に下ろされた。お紺はどうぞ二向かって歩きながらようやく悪党たちの群れの中から解放されると思うとほっとした気分を覚えていた。

 背を押され、土蔵の中に足を踏み入れたお紺は牢の中にお咲の姿が無い事を確認して安堵を覚えた。悪党たちの言葉を信じるしかないお紺にとってお咲がその場にいない事実は一つの証拠だったのである。

 「お咲は約束どおり、解き放ってやったよ。お前さんもしっかりと調教に励むんだよ」

 得意げな表情を浮かべたお仙に肩を叩かれたお紺は頭を下げて礼を言う。お紺にとって悪党たちがお咲を解き放ったのかどうか調べる手立てはない。ただ、彼らの言葉を信じるしかないお紺であった。

 「何をぼんやりとしているんだい。こっちへおいで」

 お仙に手招きされ、お銀に背を押されたお紺は疲れ切った素っ裸を歩ませ、机の前に引き立てられる。蝋燭の光の中に揺らめく、その光景を目にしたお紺は息を呑んで立ち尽くした。女の四肢を固定する拘束具を四隅に設置した机の上に天井の滑車に繋がれた鎖から一本の三味線糸が垂れ下がっているのだ。お紺の脳裏に国光の家で受けた手酷い仕置きの記憶が蘇ってくる。

 「何だ。震えているのかい?お紺さんらしくもないじゃないか」

 お紺が恐怖に身を震わしているのを目にして機嫌を良くしたお銀が絡みついてくる。

 「あら、お紺はこの方法でおさねを吊り上げられたのかい?」

 「そうなんですよ。国光一家でお咲の身代わりになって一度、抉り出されて、声を上げて泣いたんですよ」

 お銀が俯いて悲しみを噛み締めているお紺の肩を叩いて笑うとお仙はそれじゃ話が早いとばかり、机の上を指差すのだった。

 「さあ、この上に乗って、女の割れ口を堂々と晒してご覧よ」

 「お願いです。今日は疲れているので勘弁してください」

 お紺が哀願の声を洩らすとお仙は鬼のような形相になりその強張った頬を思い切り引っ叩いた。

 「何さ、空のお銚子も持ち上げられなかったくせに。こっちがお座敷芸を仕込んでやろうといのに歯向かうのかい?」

 「そ、そうじゃありません・・・ただ・・・」

 激しく捲くし立てるお仙に気押されそうになったお紺が何か言い訳をしようとするのを再び頬を打ち封じたお仙は残に差を帯びた視線を浴びせ掛ける。

 「昼間の約束、覚えてるんだろう?お前さんが稽古に精進すると誓ったからお咲を解き放ったんだよ。つべこべ言わずに机の上に乗っかるんだよ」

 お仙にこうまで言われるとお紺に躊躇する事は許されなかった。涙を飲み込んだような表情を浮かべ、机の上に乗ったお紺に新吉の手が掛かった。

 「ふふふ、お紺さん。言わなくても良い事を言って損しちゃったね」

 おとなしく新吉によって両腕を解かれ、机の上に仰臥したお紺に対してお銀はそんな事言い、舌を出して笑うのであった。

 「さあ、足を開くんだ」

 両腕を広げて机に固定した新吉はぴったりと閉じ合わせた両太腿突付いてお紺に言った。

 辛そうに眉を寄せたお紺は両足の力を抜いた。いかに抵抗しようとも事ここに至れば、全ては無駄だという事をお紺は悟ったのである。

 「聞き分けが良くなってきたじゃないか。さすが、天下のお紺姐さんだよ」

 お仙はそんなことを言いながらお銀と笑い合い、スラリと伸びたお紺の両足を極限まで押し開き、机の拘束具に繋ぎとめた。こうして、お紺は生まれたままの素っ裸を大の字に固定され、逃げも隠れも出来ない状態に仕立てられたのである。

 「ふふふ、なんて可愛いんだろう。恥ずかしそうに顔を覗かせちゃってさ・・・」

 お銀は大きく足を開かされたことにより肉の合わせ目から姿を現したお紺の陰核を目にするとそっと顔を近付かせその先端を指で弾いて、意地悪い笑みを浮かべるのである。それはほぼ一日に渡って締め付けられていた故もあり、ふっくらと腫れ上がっているようにお銀には映ずるのであった。

 「また、少し苛めさせて貰うよ。これも立派なお座敷芸のためだと思って我慢するんだよ」

 お銀は感に堪えないといった風に笑みを洩らし、処刑を待つお紺の陰核を揺さぶり、快感を高めている。何もかも失った我が身にこれでもかと鉄槌を下し続ける悪党たちにお紺は返す言葉も失っている。ただ、この残酷な時間が一刻も早く過ぎ去るのを祈るように血が出るほど唇を噛み、目を固く閉じ合わせているだけであった。

 「先っぽをしっかりと掴まえておいておくれ。しっかりと縛り上げるからね」

 お仙が垂れ下がる三味線糸を手に言うとお銀はこっくりと頷き、死んだように身動きをしなくなったお紺の姿を目にし、唇の端に笑みを浮かべる。殺してやりたいと何度も思ったお紺をここまで惨めな姿に追い込む事に成功したお銀はこの上なく愉快なのである。

 不意にお紺の表情が苦しげに歪み始める。お仙がお銀の摘み上げる陰核の根元に三味線糸を巻きつかせ始めたからだ。

 「何をそんな悔しそうな顔をしてるのさ。良い気分の癖に」

 お紺の急所を摘み上げているお銀はそんな言葉を吐いて、お仙と顔を見合わせるのであった。

 十分に糸を巻き付け、陰核を抉り出したお仙はお銀に手伝わせ、座布団を二つ折りにし、お紺の双臀の下に差し入れ、女の丘を更に明らかにすると壁際に立つ新吉に声を掛ける。

 「これで、良しと。新吉さん。思い切り巻き上げておくれ」

 お仙の言葉を受けた新吉が壁際に設置された滑車を廻し始めると、不気味な音を立てて鎖が巻き上げられて行く。そして、鎖に繋がれている三味線糸も緊張を示し始める。

 「うぐっ」

 それまで極端なまでに冷静さを装っていたお紺の口から苦しげな呻き声が洩れた。三味線糸によってお紺の陰核が無残なまでに抉り出されたからだ。

 「ふふふ、苦しそうね。て゜も我慢しなくちゃ駄目よ。素晴らしい芸を身に付けるためなのよ。お紺さん」

 苦悶の表情を浮かべるお紺に気を良くしたお銀は無防備な乳房を揺さぶって笑い声を上げるのであった。

 「その辺で十分だよ。新吉さん」

 お仙はお紺の陰核が十二分に抉り出された事を確認すると新吉の手を止めさせた。三味線糸はお紺のそれを引きちぎらんばかりに巻き上げられ、静止した。お紺の全身は針金のような緊張を示し、赤く充血を示し始めた陰核の先端は悔しさを伝えるかのようにプルプルと震えるのであった。

 「うまく引きずりだせたわ。このまま、一晩、晒しておけば十分な大きさになるんだけどね」

 お仙は惨めな姿に化したお紺を眺め、満足の笑みを洩らし、とんでもないことを口にする。そして、改めてお紺の下半身の方に廻ったお銀はその凄まじいばかりお紺の姿態に口を覆うのであった。

 「まあ、凄い」

 陰核を吊り上げられた事によりお紺の剃毛された女の縦筋は極端なまでに引き伸ばされ、見る者に卑猥な印象をより与えるのであった。

 「正に女狐が尻尾を出したって言う感じね。少しは恥を知ったどうなのよ」

 図に乗ったお銀が三味線糸を揺さぶってもお紺は片頬を机にぴったりと押し付け、何の反応も示さない。唇を固く噛み締め、悪党たちのおぞましい所業を必死になってお紺は耐えていた。

 「おい、お仙」

 それまで女たちの行為を酒樽の上に座って黙って見物していた花田が口を開いた。

 「冷酒でも持ってきてくれ、こうまもともに見せ付けられると酒でも飲まないとやってられねえよ」

 花田が新吉を見ながら言うとお仙もそれもそうだねと言って、土蔵から出て行った。

 死んだように身動きしなくなったお紺。僅かに震える陰核の先端がお紺の生きてる証のような印象を男たちに与えている。一匹の性具と化したお紺に対して悪党たち責めの矛先をまだ緩めようとはしないのである。