見世物女郎
素っ裸になったお紺を酒の肴に男たちは酒を飲み、騒ぎ始めていた。卑猥な野次を飛ばし、仲間を笑わせる者、お紺の近くに寄り、その裸体を嘗めるように見廻す者、様々な楽しみ方がそこにはあった。
国光はお紺の正面に花田と並んで座り、満足な笑みを浮かべ酒を嘗めるように流し込んではお紺の表情を窺うのだ。若頭の常吉のあばら骨を折り、逃走したお紺に対して国光は並々ならぬ憎悪を抱いている。その女を素っ裸にして晒す事に成功した国光はお紺に対する復讐を色々と考えている。女を痛めつけてその姿を楽しむという性癖を持つ国光に取って、お紺はまたとない獲物なのである。
「親分。いつまで黙らしとくのさ。早く詫びを入れさせましょうよ」
お駒がにじるようにして訴えると国光は鼻の下を伸ばし、瞑目したまま身動きをしないお紺に声を掛ける。
「お紺。目を開け」
国光の求めに応じお紺は薄く目を開いた。しかし、居並ぶ男たちを見廻す勇気はなくすぐに下を向いてしまう。するとお銀がつかつかと歩み寄り、その髪の毛を掴み、無理矢理、顔を上げさせる。
「何を黙ってるんだい。早く、皆様にお詫びを申し上げないか」
昨日、フラフラになりながら暗誦させられた詫びの言葉をお銀は強要しているのだ。お紺は大きく息を吸い込むとひきつりそうになる喉から声を絞り出す。
「お、女だてらに、国光様のご一家のお身内衆に怪我を負わせたこと、お紺、生まれたままの素っ裸になり謹んでお詫び申し上げます」
「聞こえねえぞ。もっと大きな声で言え」
後方に居る男たちから不満の声が上がると、お銀が再び険しい顔付きになり、お紺の盛り上がった臀部に平手打ちを食わせた。
「もっと大きな声でご挨拶しないか」
「待て。何度も謝られると後の楽しみが薄れるからな・・・それはいい。次は何を見せてくれるんだ」
国光が次を催促する。お紺は頬を赤らめながら再び口を開いた。
「お詫びの証として、つたない芸をご披露致します。ど、どうぞ、ご笑覧くださいませ・・・」
込み上がってくる屈辱感を堪えながらお紺はようやっとそこまで言い切った。しかし、後が続かない。業を煮やしたお銀に太腿を抓られ、お紺は次を続けるのだった。
「た、卵を使った芸をお見せします。どなたか手伝って戴けませんでしょうか・・・」
お紺の肉体に直に触れられるとあって何人もの男たちが手を上げ、押し寄せてきた。その迫力に圧倒され、お紺は声を震わせる。
「三人の方に手伝って戴きます。どうぞ籤を引いて下さい」
すかさずお銀が紙に当たりを仕込んだ籤を差し出すと男たちは我先にとそれを引いた。当たったのは安吉と勝男、そして、最年少の伸治という今年十六になったばかりの少年だった。
「おお、伸治。お前は女というものをよく勉強しとく必要がある。お前が卵を含ませる役になれ」
国光に声を掛けられ、卵を受け取った伸治だが戸惑いは隠せない。年増盛り女の裸体を間近に見ることなど初めての経験だったからだ。
「俺たちは何をすればいいんだい?別嬪さん」
安吉と勝男はニヤケタ笑みを浮かべお紺に尋ねる。二人ともこの瞬間を大いに楽しもうと期待に胸を膨らませている野卑な男たちだ。
「お紺の・・・お紺のおっぱいを揉んで下さいまし・・・」
ようやっと言い切ったお紺はさっと顔を捻り、瞳から溢れ出す涙を隠そうとする。しかし、目ざとい男たちはそれを見逃さず、激しい揶揄を浴びせるのだった。
安吉と勝男はお紺の左右に立ち、その豊かな胸を揉み解し始めた。女遊びに長けている二人はお紺の胸だけに留まらず、その指先は肌を這いずり回り、股間の叢にも攻撃を仕掛け始める。お紺忽ちにして汗ばむほどの熱気に左右され、その情欲は開花し始めてくる。
耳元にまで熱い息を吐きかけられたお紺はむずかるように首を振ると、潤み始めた瞳を開く。
「もう、十分です。た、卵を食べさせて下さい」
二人の男たちは手を引くと正面に廻り、卵を持つ伸治の姿を注視した。女を知らない伸治が果たしてうまく仕事をやり遂げられるかどうかそれも興味の的なのである。
お紺は腰を前に突き出すよな姿勢を取る両足を大胆に開いた。もうここまで落ちれば怖いものは何も無いという開き直ったようなお紺の態度である。
「さあ、始めて頂戴」
濡れた瞳を見開いたお紺に話し掛けられた伸治は大きく息を吸い込むとお紺の襞を弄り始める。
案の定、手が震える伸治はうまく卵をお紺に含ませることが出来ない。多くの野次を受け、伸治はますます焦り始めるのだ。
「坊や。ちよっと待って・・・動かさないで・・・」
お紺は伸治を諭し、自ら押し付けるようにして卵を胎内に導き始める。
「そのまま押して頂戴・・・・そう、その調子よ」
お紺の助言を受け、伸治はようやっと卵を含ませることが出来た。
伸治が退くとお紺の股間から卵の先端も見えなくなっていた。ただ、その下腹部はこんもりと盛り上がり卑猥な印象を見る者に与えるのであった。
「まあ、三味線ばかり上手いと思ったらお紺さん。そんなことまで上手なんだね」
お駒は卵を含んだお紺を揶揄しては悦に入っている。自分の立場を危うくさせたお紺をお駒は二度と世間の風に晒してはならないと頑なに思っていた。それだけにお紺が見世物女郎の真似事をすることが愉快なのだ。
「早く次をしなさいよ」
一向に押し黙ったまま、次の行動を起こさないお紺にお銀は尻を叩いて催促する。お銀に取ってはお紺が恙無くこの珍芸を行うことが大事なのである。
「それでは卵を産んで見せます。坊や、手を添えて下さい」
お紺の求めに応じ、伸治がその下方に手を揃えるとお紺は息を大きく吸い込んだ。何度も尻を叩かれ教え込まれた鶏の産卵の真似事。それは大きな屈辱をお紺に与えるものだった。しかし、ここまで追い詰められてはそれを演じないわけには行かないのだ。
「コ、コッ、コッケコッコー」
男たちが爆笑する中、大きな声をあげ、鶏の鳴き真似をしながら、お紺は必死に卵を産み落とそうとしている。お紺の漆黒の叢の間から白い卵が姿を現すと男たちの中から歓声が湧き上った。
「おっ、もう少しだぞ。頑張れ」
男たちの野次を受け、捨て鉢になったお紺は汗ばんだ裸体を震わせ、もう一度大きな声で鳴き真似をした。そして、卵は見事出産され伸治の掌に収まった。
「うまいじゃないか。三味線なんか弾くよりこっちの方がお似合いじゃないか」
男たちの笑いの渦の中、お紺を揶揄したお駒は満足の笑みを浮かべている。お紺がこうまで見事に見世物女郎の真似事をするとは思っていなかったからだ。その思いは国光も一緒だった。しかし、国光は眼光鋭くお紺の濡れた肌を見据えながら次の計画に思いを馳せていたる
「さあ、次をお願いしないか」
男たちの歓声が遠のき、ぐっと唇を噛み締め、屈辱を噛み殺しているお紺にお銀は次の余興を催促するのだった。
お紺は踏ん切りを付けるように息を吸い込むと再び、野卑な連中に視線を向け、唇を震わせる。
「こ、今度は卵を割ってお見せいたします。どなたか卵をお紺に食べさせて下さいまし」
「今度は私が食べさせてやるよ」
男たちが手を上げる前にお駒がいち早く立ち上がり、伸治の手にある卵を引っ手繰るようにするとお紺の目の先にそれを見せ付ける。
同性の手でいたぶられると知ってお紺は表情を曇らせた。しかし、お駒は薄笑いを浮かべ、お紺の顔を覗き込むようにしている。
「さあ、割って見せてくれるんだね。入れてもいいね」
「ど、どうぞ。食べさせて下さいまし」
お紺は再び覚悟を決めると大きく太腿を割り開いた。しかし、お駒の指先がその部分を弄り始めるとお紺は眉を寄せ、悔しそうに唇を噛み締める。女にそのようなことをされるのがお紺にはこの上なく辛いのだ。
「さあ、入れるからね」
お紺に了解を求め、お駒は卵を押し進める。お紺はそれに協力するように腰を浮かせ気味にしながらそれを迎え入れる。そして、卵は再び姿を消した。
「さあ、割って見せておくれ。とっくりと見物しているからね」
立ち上がったお駒は得意げになってお紺の火照り始めた頬を突付いては軽蔑の笑いを浮かべるのだった。
お駒が腰を落とすとお紺は腰をくねらせ、卵を割りに掛かった。何度も練習を積まされ、割り砕くこつを掴んだと思っていたお紺であったが簡単にはそれは割れなかった。
男たちは珍妙なお紺の踊りにやんやと歓声を送り、酒を煽り、乱痴気騒ぎをしている。お駒はお銀は忍び笑いを浮かべ、お紺の苦悩する姿に据わった視線を注いでいる。
お紺の全身は汗に塗れ、頬を充血させ、全神経をその部分に集中させ卵を割ろうと必死になっている。しかし、お紺の願いとは裏腹に一向にその兆しは見えない。とうとう、業を煮やしたお銀が更に強い調子でお紺の汗ばんだ双臀を引っ叩く。
「何をいつまで手間取ってるのさ。私の顔に泥を塗るつもりかい?」
「わ、割れないんです・・・」
お紺が消え入りそうな声で訴えるとお銀は更に傘に掛かって激しい口調でまくし立てる。
「割れないじゃ済まないだろう。何時間、お稽古したと思ってるのさ。もっと頑張るんだよ。気合を入れてやるよ」
お紺の頬を平手打ちしたお銀は傍らで見物している安吉に声を掛ける。
「おっぱいを揉んでやって下さい。気分が乗ると思うから・・・」
お銀の求めに応じ、豊かな乳房に再び手を掛けた安吉の刺激を受けながらお紺は再び、卵に挑み始めた。
悔しさも惨めさも忘れ果てたようにお紺は必死になって腰をくねらせ、卵を割り砕こうと努力している。荒い息を吐き、白い腹部を波打たせ、腰部は狂ったように左右に打ち振られている。男たちは手拍子を打ち、喝采を送りながら、大騒ぎをし、美女の踊りを楽しんでいる。大広間には淫臭を含んだ熱気が渦巻いていた。
「あっ」
小さく声を上げたお紺は内部から発生した破壊音と不快な感触が薄れたことに気が付き、動きを止めた。
「わ、割ったわ・・・」
達成感から全身の血が一気に抜けて行くような感覚を覚えたお紺の半開きにした唇に吸い寄せられるように安吉が口を合わせるとお紺の意識は遠のいていく。
だらしなく開かれたお紺の太腿を卵の破片とその中身が流れ落ちるのを目撃した男たちは一斉に歓声を上げると同時に口を吸っている安吉に野次を飛ばす。そして、安吉の舌先による入念な愛撫を受けながらお紺は完全に意識を失った。
次なる余興
自分の胎内の中を異物が這い回る感触に思わず顔をしかめ、お紺は我に還った。お銀が手拭を使って自分の胎内に残る卵の破片を掻き出してる様を目撃したお紺の頬は見る見る赤く染まり出す。自分が衆人監視の中で恥じ掻き芸を演じた事を思い出したのだ。
「気が付いたかい。良くやったじゃないか。でも、口を吸われて気を失うようじゃまだまだ修業が足りないね」
あらかた破片を掻き出したお銀はお紺の頬を突付いて笑い声を上げると、お駒と顔を見合わせ笑みを浮かべる。二人の悪女はお紺に対する敵愾心で意気投合していた。
男たちは再び、酒を飲み交わし、目の前に晒されている美しい肴に卑猥な視線を浴びせるのであった。
「ねえ、次は何をさせるのさ。まだ、これで終わりじゃないんでしょう」
お紺をもっと嘲り笑いたいお駒が催促をすると花田は照れ笑いを浮かべ頭を掻く。
「何分、時間が短いもので芸はこれだけしか出来ないんだ」
「あら、そんなのつまんないじゃない。ねえ、親分。もっと恥を掻かせて笑ってあげましょうよ」
酒の酔いに目の縁を赤くさせて訴えるお駒に国光も大きく頷いた。花田は更なる恥辱を与えようと次の余興を提案する。
「それではこの場でお紺に小便をさせましょう」
「あはは、それはいいわ。愉快だわ」
お駒は花田の提案に手を叩いて喜んだ。お紺の女として誇りを徹底的に粉砕しなければお駒は満足できないのである。
「普通にさせたんじゃ面白くないわよ。立ったままさせましょうよ」
お駒の言葉に男たちからどっと歓声が沸きあがった。女の立小便する姿など見たことがない者が殆どなのだ。
「いいわね。お紺さん。立ったままするのよ。簡単でしょう」
こちらもお紺に恥辱を与えることに悦びを感じているお銀は豊かな乳房を突付いて念を押すのだった。壇上のお紺は悪党たちの繰り出す屈辱の刃にただ一人立ち向かわなければならなかった。
お紺の足元に新聞紙が敷かれ、バケツが配置される。その様をお紺は悲しげに見つめている。今にも事切れそうになる神経を奮い立たせて演じた恥掻き芸を終えた自分に更なる屈辱を与えようとする悪党たち。お紺の頬を新たな涙が伝わるのであった。
「待て。そのままやらかしたら、小便は前には飛ばないぞ」
国光がお紺の放尿に異を唱え始めた。お紺は一瞬、普通の姿勢での放尿を許されるのかと期待を持った。しかし、それに続く国光の言葉はお紺を新たな恐怖へと叩き込む。
「その茂みをすっぱり、剃り上げて、邪魔なものを無くしてからさせるんだ」
再び男たちから哄笑が沸き、女たちはやんやんと囃し立てる。お紺は悲しみを飲み込むような表情を浮かべ、彼らの乱痴気騒ぎを見守っているしかなかった。
「あれだけの狼藉を働いたんだ。男だったら指の一本でも詰めさせるところだが女だから、そんなところで勘弁してやる。有り難く思えよ。お紺」
自分の着想にお紺が狼狽しているのに気を良くした国光はそんな言葉を吐き、旨そうに酒を吸い込むのだった。お紺の次の仕置きには剃毛を施す必要がある。それをあらかじめ国光はさせたに過ぎないのだ。