深夜の訪問
「おい、先生」
いきなり、声を掛けられ、和美は意識が覚醒した。既にとっぷりと暮れた空を背に一哉が見下ろしていた。長時間に渡って土の中に埋められている和美は下半身の痺れを感じ顔をしかめた。
「生きてるのね」
和美の掠れた声を聞いて一哉は座り込むとタバコに火を付けた。
「ああ、まだ。真夜中だ。時間有るぜ」
独り言のように呟いた一哉は和美の冷たく冴えた頬を愛しそうに撫ぜ上げる。
「こんなに可愛い先生が明日の朝にはお陀仏なんて寂しすぎるぜ。考え直してくれよ」
和美は瞳を開くと恨めしそうな表情で一哉を見上げた。
「私が生きても助けてくれるわけじゃないでしょう?」
「そ、それはよう」
和美の思わぬ反撃に出会って一哉は言いよどんだ。さすがに和美を助けるとは一哉は言えなかった。
「私はもう命に未練はないの。あなたたちに私はずたずたにされて生きる気力もなくしたのよ」
和美が皮肉めいた口調で心情を吐露すると一哉は深い溜息を付いた。
「先生とはもうお別れが。最後にしゃぶって貰おうか」
処刑を待っている和美に一哉は欲望を処理させようというのだ。しかし、和美はそんな一哉の扱いに何の感情も抱かないように瞳をそよがせていた。
死を目前に控えた女の境遇が欲情を刺激するのだろう一哉は緊張した一物を揺らせながら和美の前にぺたんと尻餅を付いた。
「さあ、しゃぶって貰おうか」
一哉が身を揺すって迫ってくると和美は顔を捻ってそれを避けた。
「ねえ、おっぱいを揉んでくれない。身体が冷え切ってとてもそんな気分になれないの」
潤んだ瞳で訴えられると一哉も少しは情けを覚えたのだろうスコップを使って和美の前の土を掘り返し始める。
埋めたばかりとはいえ、それは手間の掛かる作業だった。しかし、和美の願いを叶えるために一哉は汗を滴らせながらスコップを振るった。
和美の白い胸が姿を現すと一哉は手で土を掻き出し始めた。
「このくらいでいいだろう」
和美の愛らしい乳首が二つとも顔を覗かせると一哉は汗を拭った。
「有難う」
和美は一哉の掌の愛撫を感じると頬を赤らめて礼を言った。
「もういいわ」
冷え切った全身に女の血が駆け巡り始めたのを感じた和美は一哉の顔を上目遣いに見上げる。
「じゃあ、お願いするぜ」
一哉は不自然な体勢になりながら愛撫を続け、和美の眼前にいきり立った一物を突き付けた。
和美はその先端に舌を踊らせ、丹念な愛撫を開始する。
「よう、先生。俺の物をしゃぶり抜くのは何度目か覚えているかい?」
甘美な舌触りを感じながら一哉がそかな事を言うと和美は愛撫を止めて首を振った。
「判らないわ。毎日のようにしてたから」
「俺も判らないぜ。続けてくれ」
一哉は笑いを浮かべながら和美の乳首を揺さぶった。促された和美は押し包むように一哉の熱気を帯びた屹立を口に含むと緩やかに首を前後に揺さぶった。悲しさも悔しさも吹き飛ばすように和美は一途になってその行為を続けている。それは自分を地獄に突き落とした男への一矢を報いるかのような挑発的な愛撫だった。
往かせると見せてはいなし、興奮を落としてから責め上げる。一哉はその手管に舌を巻く思いになった。
和美は一哉の焦りを楽しむかのようにうっとりとした表情を浮かべて舌を動かしている。それは明日の処刑を前に男の感触をしっかりと記憶に留めておこうとするかのような印象を一哉に与えている。
再び、和美が顔を引こうとするのを感じた一哉は我を忘れて和美の頭を抱え込み、その欲望を満足させた。
次と次と送り込まれる液体を舌の上に受け止めながら和美は一哉が声を殺して泣いているのを知った。
「泣いているの?」
一哉の欲望を飲み込んで和美が尋ねても一哉の慟哭は続いていた。
「先生を死なせたくないんだ。お願いだ生きてくれ」
泥だらけになるのも厭わず和美の首にしがみついて一哉は泣き声を放っている。和美にはどうすることも出来ない。ただ、一哉に少年らしい純粋な一面を見て和美は幾らかほっとしていた。これまで鬼畜非道ぶりからは和美も想像できない一哉だったからだ。
「許してくれなんて言えた義理じゃないけど天国へ行っても元気でいてくれよな」
興奮を収めた一哉は土を元通りに埋め直し、その場を離れた。再び、一人にされた和美は空を見上げる。満天の星空に波の音、和美の心は再び平穏を取り戻すと瞼を閉じた。
運命の朝
「おはよう。先生」
ミチルに頬を擽られ和美は目覚めた。戸外で一夜を過ごした和美の目覚めはすっきりとは行かなかった。既に下半身は感覚もないほど痺れきり、湿気を含んだ土の冷たさが全身に染み渡っていた。
「苦しいでしょう。先生。もうすぐ楽にして上げるわ」
ミチルの一辺の哀れみも感じさせぬ言葉を聞いて和美は瞼を落した。この娘は人が死ぬのを楽しんでいる。和美は朦朧とした意識の中でミチルに対する罵りの言葉を飲み込んだ。
「最後のおしゃぶりをさせて上げるわ。夜中に一哉を飲み込んだみたいだから裕司にしてあげてね」
「お願い。水を飲ませて」
裕司がニヤケタ表情で下半身を露出して尻餅をつくと和美は悲痛な声を上げた。全身に痺れが廻り、喉が乾いている和美にとってその行為はとてつもなく難儀に思われたからだ。
「そうね、その程度のお願いなら聞いて上げるわ。一哉、持ってきて」
一哉が冷たい水をコップに入れて和美の口に添えてやると和美はそれをおいしそうに飲み干すのであった。
「ありがとう。おいしかったわ」
和美に礼を言われた一哉が引き下がると入れ替わりに裕司がその唇に迫った。
「さあ、最後に俺の物をしゃぶってくれ」
催促がましく裕司に言われた和美は大きく口を開いてそれをすっぽりと押し包んだ。
「ふふふ、先生。しっかりと味わってね」
ミチルに嘲笑の言葉を受けても和美は微動だにせず、その最後の奉仕を一心になって続けるのであった。
裕司を慰めている間に由香里と裕美が連れてこられた。二人ともTシャツ一枚を身に付け生き埋めにされ、裕司を慰めている和美の姿に表情を硬くしていた。ミチルはそんな二人を目の前にすると腕を組んで得意そうに話し出すのであった。
「先生はこれから処刑されるのよ。何故、先生が処刑されるか判る?」
ミチルの言葉を聞いて恐怖を覚えた二人は揃って首を振った。
「裕美を殺すのを嫌がったからよ。だから、代わりに殺されるの。あなたが先生を殺すのよ。裕美」
「嫌、出来ません」
突然の宣告に裕美は地面に腰を落として激しく首を振った。
「由香里。あんたはやるわね」
ミチルに話を振られた由香里はこっくりと頷いた。例の浣腸身代わりの一件以来、和美から心が離れていた由香里はそんなことは簡単に出来る心境になっていた。
「裕美、由香里が手伝ってくれるそうよ。二人で首を締めて殺すのよ」
ミチルが一歩近づくと裕美は地面の上を後ずさった。
「許してください。出来ません」
頑なに拒否する裕美の髪の毛を掴んで身体を引き起こしたミチルはその恐怖に引きつった表情を楽しそうに覗き込んだ。
「じゃあ、一緒に埋めて上げるわ。仲良くあの世に行ってね」
ミチルの言葉に裕美は驚愕の表情を浮かべた。死にたいと思ったことはあっても現実の死を突きつけられると裕美の心は恐怖に竦んだ。
「この子を縛って上げて、先生と一緒に埋めるわよ」
ミチルの言葉に一哉と洋輔がその腕を取ると裕司をようやっと落した和美が口を開いた。
「待って、裕美さんを連れてきて」
和美の言葉に促され裕美はその目前に膝を落した。
「構わないの。先生を殺して。あなたの境遇だから神様も許してくれる筈よ」
聞いている裕美の頬を涙が伝わり始めた。自分を助けようとして自ら殺人を依頼する和美の心情を思いやって裕美は胸が一杯になっていた。
「私は生きていても苦しいの。死んで楽になりたいの。お願い、裕美さん」
「先生」
裕美は和美の首に取り縋って声を上げて泣き始めた。ここに監禁されて以来、励ましあってきた和美を手に掛けることなど裕美には出来る筈も無かった。しかし、それをしなければ自分も殺される。裕美は無慈悲な宣告を下した悪魔たちを呪った、罵った。そして、決断した。
「先生。許して」
「いいのよ。裕美さん」
泣き止んだ裕美が決心したことに和美は安堵し、微笑さえ浮かべるのであった。
ミチルの手によって和美の露出した首に革紐が二巻きされるとその両端を由香里と裕美に持つように言うのだった。
「さあ、いよいよ最後だよ。先生。言い残すことがあったら言ってご覧」
和美は上目遣いにミチルを見上げると小さく口を開いた。
「何も無いわ。早く楽にして頂戴」
それは和美の強がりだった。言いたいことは山ほどあるがこの娘に何を言っても無駄だと感じた和美は言葉を飲み込んだのだ。
「いい度胸ね。私が合図したら力一杯、紐を引っ張るのよ」
裕美も由香里も和美の視線を避けるように顔を背けて紐を両手で握った。和美は涙が溢れてきたのを悟られぬように瞼を閉ざした。もう、終わりなのだ。少年たちに与えられ続けてきた屈辱からも解放される。和美は頭の中を空っぽにしてその一瞬を待っていた。
(完)