逃亡

 既に辺りは暗くなりかけていた。波の音が聞こえる和室で真由子は胡座縛りにされ、食事をさせられている最中であった。

 あれから、志津江と交代で調教を受けた真由子であったが卵割でやはりつまづいた。何度やっても卵は割れず、千代をに怒鳴られ、朱美たちに笑われた。志津江は一足早く、卵割りに成功して牢に戻されたのだが、真由子には日が暮れてもなっても調教を続けられていたのである。

 「さあ、あーん。口を大きく開きなさい」

 麻子は赤ん坊のように真由子を扱いチャーハン食べさせていた。もう、人間の意志を喪失したように真由子は悪党たちに従っている真由子であった。

 「もう、いいのね。ごちそうさまをいいな」

 首を振り、もう、食べたくない意思を表した真由子に対して麻子は縄に締め上げられた軽く胸を弾いた。

 「ごちそうさま」

 「そうそう、素直にならないと損だよ」

 麻子がチャーハンの皿を持って立ち上がり台所に向かおうと部屋を出ると大須賀が廊下を歩いてきた。

 「あら、ご主人。もう、帰ってきたんですか?」

 昨夜、東京の自宅に戻った大須賀は月曜の朝に戻ってくると聞いていたので麻子は幾分、驚いていた。

 「いや、もう一晩、泊まるつもりだったんだが、どうにもここの事が気になってね。予定を切り上げてしまったよ」

 照れ笑いを浮かべた大須賀が和室に入ると大槻が近寄って来た。

 「女たちの調教は順調ですぜ。奥さんは卵割を見事に演じました」

 「ほう。やるもんだね」

 大須賀は千代の方を向いて驚いたような声を上げた。

 「千代さん。ご苦労様。頑張っているね」

 「いえ、こちらの姐さんはまだ卵割がうまく行かなくて難議してるところです。徹夜をしてでも教え込みます」

 「あはは、徹夜か。これはまた、凄いね」

 大須賀は千代の熱心さに舌を巻く思いだった。

 「ちよっと芸を見て貰えませんか?この女もやる気を起こすと思いますから」

 「おお、見せて貰おう。ただ、帰ったばかりなので着替えさせてくれないか?」

 千代の性急な申し出に大須賀が苦笑いを浮かべて言うと千代も大きく頷くのだった。

 「その女に褌を締めさせてちよっと散歩さしてやっておくれ。もう、すっかり乾いちまっただろうから」

 千代が麻子と順子に言うと二人は真由子を立ち上がらせ、例の褌を締めさせるのであった。再び、羞恥を感じた真由子は頬を染める。しかし、二人はそんなことにはお構いなく事務的にその仕事を終えるのだった。

 「さあ、歩くんだよ」

 麻子に肩を押された真由子は唇を噛み締めてよろよろと歩き始める。たちまち、肉芯に刺激を受けた真由子は真由子は眉を寄せ、立ち止まってしまう。しかし、二人はそんな真由子の尻を交互に引っ叩き、淫靡な散歩に連れ出すのであった。

 真由子は縄尻を順子に取られ、麻子に叱咤を受けながら廊下を歩まされている。生まれたままの素っ裸を後手に括られ、股間を締め上げられ、蓮っ葉な女たちに嘲られながら、屈辱の歩行を続ける真由子。これほど、真由子を惨めな気持ちに追い込む仕打ちはないだろう。

 こんな、地獄の釜の中でじわじわと茹でられるような責め苦にいつまで遭うのだろうか?そんな事をぼんやりと考えながら、真由子は階段を踏み締め、一階へと下りてきた。

 床まで届く大きな窓が開かれ、カーテンがふわふわと揺らめいているのを目にして真由子はあそこから外に出れば逃げられるのではないかと咄嗟に思ってしまった。そうなると真由子の抑えは効かない。立ち止まった真由子の肩を突付いた麻子に肩先を激しくぶつけると続いて唖然としている順子に足を飛ばして転倒させる。

 「あっ、何をするのさ」

 順子が縄尻を離すと真由子はカーテンに突進してそのまま庭先に飛び降りるのだった。

 「畜生、真由子が逃げたよ」

 腰を打って立ち上がれない順子の叫びを聞きながら真由子は綺麗に芝が刈り取られている月明かりだけの庭を走っていく。真由子は捕まったときの悪魔たちの報復や、股間を締め上げている意地悪な布のことなど忘れてしまって、走り、潅木の中に身を躍らせた。

 波の音が聞こえている真由子はこの先に民家があると思って、林の中を走っていた。

 汗が全身に吹き出ている真由子は荒い息を整えるために立ち止まった。追って来る気配は今のところ無い。真由子は肉芯を刺激されている事を思い出し、太腿を振るわせた。そして、込み上がってくる情感を振り払うかのように頭を大きく振ると再び、走り始めた。

 目の前に明かりが見えた真由子はその光に向かって走って行く。それが希望の光だと信じて。

偶然の再会

 運転手の栗田は大須賀を東京から送ってくる仕事を終え、ステテコ姿でくつろいでいた。ここは栗田と船橋が住居として与えられている離れである。今は船橋が母屋にいるので彼一人である。

 栗田がラジオのスイッチを入れると流行歌が流れてくる。不意に栗田は娘の事を思い出し、悲しみが湧きあがってきた。美空ひばりのようになるんだと今年、十歳になる娘は毎日、歌を歌っては栗田を楽しませてくれた。しかし、たった一度の過ちのお陰で、教師を首になり娘とは別れ別れの運命に晒されてしまったのだ。あの時、あの女が余計な事をしなければこんな事にはならなかった。栗田は涙を拭うと薄汚い畳の上に寝転がった。

 娘との楽しかった思い出が栗田には一番辛かった。戦地に行っていたため婚期が遅れた栗田には三十を過ぎてやっと生まれた一粒種である。女房の事は思い出さない栗田であるが娘には未練があった。

 不意に表の戸が開かれ、女の声が聞こえてきた。

 「助けて下さい。お願いします」

 女の声は震えている。玄関に出た栗田はぎよっとした。褌一つの女が後手に縛られそこに立っていたからだ。

 「ああ、た、助けて下さい」

 人がいるのを知って真由子は更に大きな声を上げて哀願した。ぐずぐずしてると追っ手が迫ってくる事に真由子は気が気ではなかった。しかし、男は塑像のようにその場に突っ立って動こうとしないで自分の顔を見つめていた。

 「あっ」

 そのステテコ姿の男の顔を改めて見た真由子は絶句した。そこに見知った顔を見つけた真由子は動く事が出来なくなった。

 「畜生。真由子の奴、うんとヤキを入れてやるから」

 順子と麻子は口々に不平を並べ立て懐中電灯を手にして庭を歩き回っていた。既に真由子の逃亡は屋敷中の悪魔に知れ渡り、大槻と朱美も捜索に参加していた。潅木の先は崖になり、逃げる事は不可能だという事は判っていも彼らは必死になって真由子を探していたのである。

 不意に懐中電灯の光の中に白い肉体が浮かび上がり、朱美は大声を出した。

 「いたよ。真由子がいたよ」

 朱美の声に応じて悪党たちが集合してくる。

 「おじさん」

 真由子の縄尻を握り姿を現したのが栗田だったので朱美は驚きの声を放った。

 「俺の住まいだと知らないでこの女が飛び込んできたときに肝を潰したよ」

 栗田は駆け寄ってきた朱美に縄尻を渡すと額の汗を拭った。

 「よく、捕まえてくれた。母屋に来てくれ」

 「はい。私もご主人に話があるんです」

 がっくり首を垂れている真由子を先頭に母屋への道を一団が歩いていると順子と麻子が姿を現し、真由子の頬を力一杯、引っ叩く。

 「糞、よくもこけにしてくれたじゃないか。覚悟をしておきな」

 「まあ、そんな事は屋敷に戻ってからだ」

 大槻は怒り狂ってる二人の女に諭すと一足先に屋敷に戻り、真由子を捕らえた事を大槻に伝えるように命ずるのだった。

 順子と麻子が走り去ると真由子は肩を叩かれ、再び、裸足で庭の土を踏み締め母屋への道を辿り始める。逃亡を企て、それに失敗した悪魔たちの仕返しを思うと真由子は身も凍る思いを感じていた。しかし、そんな事を臆面にも出さず真由子は唇を噛み締めて歩を進めていた。

 飛び出した窓から再び真由子は悪魔たちの巣食う屋敷に取り込まれた。顔を真っ赤にした大須賀が不機嫌さを隠さず待ち構えていた。

 「お前には大金が掛かっていると逃げられてたまるか?」

 「ふん。本当に吉井さんにお金が渡ったかどうか、怪しいもんだ」

 激しい平手打ちを食わせた大須賀に対し真由子は何もかも放逐してしまったような態度に出た。真相を見破られたような感覚に大須賀は顔を真っ赤にして怒りの矛先を代える。

 「お前たちの調教が手ぬるいからこんな事になるんだ。もっと厳しく躾けてこんな気が起きないようにしろ」

 大須賀に怒鳴られ、大槻とズベ公たちは思わず下を向いた。しかし、千代だけはそんな態度は見せなかった。

 「この女、相当な跳ねっ返りですね。普通ならあそこが気になってとてもそんな気が起きない筈です。私がそその根性を叩きなおして、可愛い女に仕立てて上げますよ」

 「頼んだぞ。お前もそのために雇っているんだからな」

 千代の自信たっぷりの物言いに光明を見出した大須賀は次に栗田の方を向き直った。

 「良く、捕まえた。礼を言うぞ」

 「ご主人、その女と会うのは初めてじゃないのです」

 栗田の言葉を聞いて大須賀はおやっという表情をして次の言葉を待った。

 「その女が痴漢をしている私を捕まえて駅員に引き渡したのです」

 一同、栗田の言葉を聞いて驚きの声を放った。思いもかけない事実を知らされ、大須賀は腹抱えて笑い出した。栗田が失職し、家族と離れ離れにならなければならない原因が真由子と知り、大須賀の黒い欲望はまた、蠢きはじめる。

 「なら、この女にはひとかどの恨みを思っているんだろう?」

 「ええ、私はほんの出来心で痴漢しただけでして、常習犯ではないのです。あの時、この女さえいなかったら今でも平和な暮らしが続いていたかと思うと悔しくって・・・」

 また、家族の事を思い出し、栗田は思わず涙ぐんだ。その姿を目にして大須賀は即決した。

 「良し、お前も今日から我々の仲間だ。この女を貶める手伝いをしろ」

 「はい。喜んで致します」

 深々と頭を下げる栗田を目にしてズベ公たちは盛んに唇を噛む真由子を囃し立てる。

 「自分が痴漢されたわけでもないのでおじさんを捕まえるなんてとんでもない女ね」

 「お節介にも程があるわ。ばちがあたったんじゃない」

 女たちの口撃を受けて苦悩する真由子を目にし大須賀は口を開いた。

 「それじゃ、逃亡を謀った奴隷の裁判を開く。地下室に連行してくれ」

 真由子に対して厳しい判決が下るに決まっている奴隷法廷。再び屈辱に塗れる事を予感しながら真由子は地下室に向かうのであった。

奴隷裁判

 地下室に連れ込まれた真由子が天井から垂れ下がる鎖にその身を繋がれると大須賀は折り畳み椅子を持ち出し、真由子の正面にどっかと腰を落とすのであった。

 股間を締め上げていた布を剥がれ、文字通りの素っ裸に戻った真由子に対し、大須賀は口を開く。

 「女、何か言いたい事があったら言ってみろ」

 大須賀の言葉を耳にした真由子は挑戦的な顔付きになるとそれまで溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのように口を開いた。

 「お前たちは女をこんな目に遭わせて楽しいのか?頭がおかしいとか思えない」

 「ちよっと、何てこと言うのさ」

 麻子が目を尖らせて打ち叩こうとするのを大須賀は制した。

 「ほう。しおらしく反省の言葉も出るかと思ったらとんでもない口を利きやがる。面白いじゃないか。どんなお仕置きを受けても構わないみたいだな?」

 「好きにするがいいさ。頭のおかしい連中のする事だ。腹を据えて受けてやるよ」

 売り言葉に買い言葉とばかり、真由子は開き直っている。大須賀は檻の中で怯えている志津江を引きずり出すように命ずるのであった。

 後手に縛られ、引き立てられてきた志津江に対して大須賀は柔和な表情を浮かべた。

 「奥さんは素直でとても良い奴隷だ。しかし、この女はとんでもない跳ねっ返りだ。さっき逃げようとして俺たちは肝を冷やしたんだ」

 真由子が逃亡を謀ったと聞かされ志津江の表情は緊張した。真由子が捕らわれて以来、連帯責任だと何度も聞かされてきた志津江は自分にも罰が下るのではないかと恐怖を覚えているのだ。

 「この女に反省を促す意味でな、お前にも罰を与える。その腰のじゃまっけな布を取り去り、鎖に吊るせ」

 それまでうな垂れていた真由子がはっと顔を上げ、大須賀を見つめる。

 「私が罰を受ければいいでしょう?志津江さんには関係ないわ」

 「ふふふ、そうはいかないわよ。連帯責任は取るべきだわ。奥様には可哀想だけど、あなたがいけないのよ」

 大須賀に代わって答えた朱美は志津江の腰に巻き付く布を取り去ると真由子と背中合わせに鎖に繋がれた。こうして、二人の女奴隷は肌が触れ合うよう晒されたのである。

 「ねえ、大須賀さん。どんなお仕置きを考えてるの?」

 二人の裸体を目にし、目に残酷な光を浮かべた麻子が尋ねると大須賀は口を開いた。

 「まずは下の毛を剃り上げて割れ目を晒して思い知らせてやれ」

 麻子と順子が準備のために地下室を出てゆくと朱美はニンマリとした笑みを浮かべ、真由子の恥毛を指差すのだった。

 「その生意気な毛を剃られるのよ。生まれ変わって芸に励むあなたにとってはぴったりのお仕置きじゃない?」

 朱美は志津江にも難を及ぼす事になった自分の行動を後悔していた。現に背中合わせの志津江の啜り泣きが聞こえてくる。何とか志津江に対する無残な仕置きを思い止まらせる方法はないか?真由子は思い悩むのであった。