鏡の部屋

 すっかり暮れ切った高原の道を栗山の車はひた走っている。極上の獲物を積んだ車の到着を三枝は今か今かと待ち構えているに違いなかった。それを思うと栗山の顔も思わず綻ぶのであった。

 「久し振りだから由希も待ってるだろうな?」

 初めて栗山御殿を訪れる大野は若い妻の肉体を想像して独り言のように呟いた。

 「大野さんの部屋も用意してますよ。本来なら由希ちゃんもそこで生活できるんだけど兄貴が心配なのか地下で暮らしています」

 「徹もあそこまでになると哀れだよな。あれじゃ、誰からも相手にされなくなるぜ」

 大野は低い声を出して笑うと寝入ったままの唯を見た。この若い獲物がどんな肉体をしているのか?それを想像する大野の心は熱く興奮する。栗山邸まであと少しのところまで車は近づいていた。

 地下室では奴隷たちに食事が配られているところだった。ここに来て食事も改善された。一人一人トレーに載せられた食事が宛がわれ、ちゃとんとしたおかずも付いていた。

 一階から専用エレベーターで送られる食事を由里と恵子がガラスの檻の中に運ぶのだ。この地下から出るためには専用パスワード、もしくは上で操作しない限り扉は開かない。由里も恵子もそのパスワードは知らされてないため、扉を開け放ったまま食事を運んでも心配ないのである。

 最後に一人分の食事を手にした由里はそれを鉄格子の中で寝そべっている徹の檻に運んだ。

 「食事だよ。それから便器をよこして」

 由里に言われた徹はよろよろと身を起こすと檻の片隅にあった便器を押し出した。

 「ま、待ってくれ」

 由里がそれを手に立ち去ろうとすると徹は哀れな声を出した。たまに風呂に入れてもらっているので髭は伸びていないが徹は目ばかりぎらつかせ、やつれた印象を由里に与えていた。

 「何?こっちも忙しいんだよ」

 「その、最近、ご無沙汰なもんでやりたく仕方ないんだ」

 徹は恥ずかしそうに自分の股間を指差した。そこは十分に力を漲らせ、いつでも暴発しそうに蠢いている。

 「自分でやりなよ。紙なら上げるから」

 由里はポケットティッシュを取り出すと鉄格子の間からそれを差し入れた。

 「見せてくれ。お前のが見たい」

 徹はかつての由里に涙を浮かべてそんな事を訴えている。由里は思わず胸が詰まった。かつては恋人として付き合った男が落ちぶれ果てた姿をそこに晒している。奴隷に許可無く情けを掛けるのは規律違反だったがこの程度なら問題ないと由里は判断した。

 便器を足元に置いた由里はスカートをたくし上げるとパンティを膝まで落としてその部分を寛げて徹の眼前に晒した。

 「早くして」

 その言葉に優しさが含まれていることに気が付いた徹は目を皿のようにしてその部分を見つめると一心不乱に手を動かし始める。

 徹は瞬く間に絶頂を迎え、目を閉じたまま由里に渡された紙に欲望を排出していた。

 「由里、恵子。一階、玄関ホールに集合」

 三枝の声が響き渡ると快感の余韻を楽しんでいる徹を捨て置いて由里は地下室を出て行くのであった。

 栗山と大野によって運ばれてきた女の顔を見た由里は思わず息を飲んだ。アイドルの椎名唯だったからだ。

 「椎名唯だよ」

 恵子もそれに気が付いたらしく由里に小声で囁いた。

 「おお、可愛い顔をしてるではないか」

 パーティールームに連れ込まれ、長椅子の上に横たわる唯を見て三枝は満足の笑みを洩らした。小柄な唯の顔は小さく、顎も細い、均整の取れたボディは衣服によって隠されていたがその裸体の素晴らしさは容易に想像できる。三枝はこの娘にどんなポーズで排泄させようかそれだけを考えていた。

 「鏡の部屋の扉を開けてください」

 栗山に言われた三枝がスイッチを押すとガラスがするすると半分程度上昇し、内部が鏡の部屋が姿を現した。栗山と松井がその中に唯を押し込めると再び、ガラスが下降し、唯はその小部屋の中に閉じ込められた。

 「やったな、おめでとう」

 三枝は満面に笑みを湛えて栗山に握手を求める。新たな生贄の登場に二人の悪魔の胸は異様に昂っていた。

 「さあ、この前で静かに酒でも飲み交わすか」

 大野も誘って酒宴を提案した三枝だったが大野は手を振ってそれを辞退した。

 「私は妻と時間を過ごしたい」

 「おお、それは失礼。恵子、由里、由希を化粧させて大野の部屋に連れてってくれ」

 大野が消えると栗山と三枝は小部屋の前にテーブルと椅子を配置して、塩野によって運ばれてきた酒とつまみを前にその眠ったままの生贄に視線を注ぐのだった。

 この小部屋は三枝の提案で設置されたもので中の女が尿意を堪えきれなくなるの様を見物するものだった。床にはのカーペットが敷かれ、窺い知れないが、排水口が空いているし、シャワーだって降り注ぎ清掃はいたって容易に出きる仕組みになっている。

 「やっぱり、芸能人は一味、違いますな」

 そんな言葉を吐きながら三枝は酒を飲み干した。

 「木曽さんは明日、いらっしゃるようです」

 「そうか、それまでにはたっぷり時間がある。じっくり楽しめるな」

 三枝は独り言のように言うと再び、視線をガラスの小部屋で眠っている唯に注ぐのだった。何も知らずに眠り続ける唯、彼女の苦難の日々はそのスタートラインに立ったばかりだった。

抵抗するアイドル

 軽い頭痛を覚えて唯は目を覚ました。最初に目に飛び込んできたのは鏡に映る自分の姿だった。

 「何、これ?」

 唯は思わず口に出して、右に左に首を振った。どっちを向いても鏡、鏡、鏡だった。頭上から眩しすぎるほど明るいライトが自分を照らしている。

 唯は自分が男に会うため車に乗り込んだことを思い出した。

 (誘拐?)

 唯の頭に一瞬、不安がよぎった。あの時、車の中にいた男に唯は見覚えがなかった。唯は軽率に車に乗ってしまったことを後悔した。しかし、そんな事を考えていても仕方が無いことに気が付いた唯は自分の置かれてる立場を考えた。

 (アイドルの自分を誘拐するのなら目的は身代金だ。ならばおとなしくしていた方が身のためだ)

 唯は騒ぎ立てるのを止め、身体を見回した。持っていたバッグは当然、無くなっている。携帯電話も無い、それどころかポケットに入れてあったハンカチとティッシュも無かった。ただ一つ残された身の回り品の腕時計を覗いた唯は驚いた。何と時刻は9時になろうとしている。車に乗ったのが三時半過ぎだったから既に5時間以上。経過してることになる。

 6時入りのテレビ局の歌番組の生本番はもう終わろうとしている。唯は自分が失踪して、事務所やテレビ局では大騒ぎをしている事を思うと心が暗く沈んだ。

 自分がトップアイドルの座から転げ落ちる事に恐れを抱いたのだ。

 心細くなった唯はDAIの事を思った。彼にも嫌疑が向けられ、二人の関係は明るみに出てしまうかも知れない。そう思うと唯はいても立ってもいられなくなった。

 いきなり立ち上がった唯は鏡をドンドン叩いた。

 「ここから、出してよ。誰かいるんでしょう?」

 精一杯の声を張り上げてみたが返事、一つ聞こえてこない。聞こえてくるのは低く唸りを上げるモーター音だけだった。

 「畜生、どうするつもりなんだよ。このボケが」

 アイドルにあるまじき罵り声を放つと唯は鏡を蹴飛ばした。鈍い音がするだけで割れる気配さえない。

 唯は強烈なライトに照らされてるため異様な息苦しさと熱さを覚えた。犯人たちはずっとここに自分を監禁するのだろうか?唯は別の恐怖も覚えると体力温存のために床に腰を落とし、身動きしなくなった。鏡の部屋はとても狭くて身を横たえるほどのスペースは無い。唯は鏡に身体を預け、足を伸ばすと目を閉ざした。

 その唯をガラス越しに見守る悪魔たちは声を潜めて成り行きを見守っている。由里に恵子もそして、忍までもが息を殺して捕われたアイドルのに目を凝らしているのだ。

 唯が目覚めて一時間が経過した頃から彼女の態度に落ち着きが無くなった。妙にそわそわして腰を浮かしたり、足を伸ばしたり縮めたりしている。

 唯が尿意を我慢し始めているのを見て取った栗山は三枝と顔を見合わせてほくそんえんだ。彼らが待ち望んだ瞬間が近づいているのだ。

 久々に立ち上がった唯はまたぞろ鏡を叩き始めた。

 「誰かいないの?ここから出して〜〜」

 声に先程までの怒気が含まれていない。哀願にも近いその声は暗にトイレに行かせてとほのめかしているようで栗山の嗜虐心はくすぐられるような快感を覚えている。

 いくら呼び掛けても返事がないのに落胆した唯はまたもや座り込むと腕時計に目をやった。もう、10時を廻っている。三時過ぎからトイレを許されていない唯は限界に達していた。

 (もう、我慢できない。なんとかしなければ)

 唯は辺りを見回した。しかし、鏡に囲まれた狭い空間の中にそれを受けてくれるものなど有りはしなかった。

 唯はニットのカーディガンを脱いだ。このまま床に垂れ流し、足が濡れるのを嫌った唯はカーディガンにそれを吸い取らせようと考えたのだ。

 唯がパンティを脱ぎ始めたので栗山はビデオカメラを廻し始めた。木曽にその姿を見せて溜飲を下げて貰うつもりだったのだ。

 唇を噛み締めた唯はカーディガンを股間に宛がうと我慢に我慢を重ねた欲求を解いた。

 カーディガンはすぐさま湿り始め、唯の掌の上で重さを増してきた。

 (早く、止まって)

 唯が心の中で念じた時、不意に正面と右の側の鏡が溶けるように消え去り、自分を見つめる、いくつもの顔が現れた。

 「嫌、」

 驚きの余り、唯は尻餅を付き、カーディガンを取り落としてしまい、その床に直に水しぶきを立ててしまう。

 羞恥に頬を染めた唯はそれでも排尿を終えると好奇な視線から逃れるように背を向けパンティを穿き直すと激しい声を放った。

 「どういうつもりなの?こんなところに閉じ込めて。私を早く返さないと大変なことになるわよ」

 強気に出た唯であったがガラスが上昇し、松井が顔を覗かせると恐怖に頬を引きつらせる。

 「小便垂らした癖に生意気なねえちゃんだぜ。出て来いよ」

 「ち、近寄らないで」

 松井が腕を差し出したので唯はそれを逃れようと身体を捩った。裸足の足が尿まみれになるがそんなことには構っていられない唯であった。

 「おとなしくしろよ」

 遂に腕を掴まれた唯はガラスの小部屋から引き出された。

 「あっ、いてえ」

 唯が見境なく手の甲に噛み付いたので松井は思わず手を離し、尻餅を付いてしまう。

 「捕まえろ」

 三枝の号令と共に男女が行く手を遮ったが唯は敏捷な身のこなしでその囲みを突破した。唯はパーティルームを抜け、二階への階段と目前の扉、どちらに逃げるか一瞬、迷ったが構わず階段を駆け上がった。

 「二階に行ったぞ」

 男たちの怒声を背後に聞きながら、唯はそのまま二階の奥へと突き進んだ。

 「アイドルは往生際が肝心だぞ」

 不意にドアが開き、大野が顔を出したものだから驚いた唯は手近なドアを開いて室内に飛び込んだ。

 そこは様々な拷問器具が用意されたプレイルームだったがそんな事を唯は知る良しもない。ただ、悪魔たちの侵入を防ごうと内側からドアノブをしっかりと押さえるしかなかった。

 「おい、こら開けろ」

 手を噛み付かれた松井がドアを叩いて大声を発している。それでも唯はしっかりとドアノブを押さえていた。しかし、外に引かれる力には効しきれない。唯はドアから手を離すと部屋の片隅に追い詰められてゆく。

 松井を先頭に栗山、三枝、そして、大野までが室内になだれ込んでくる。

 「ふふ、都合が良いところに逃げ込んだではないか、お仕置きを受けるには持って来いの場所だ」

 三枝が嫌らしい笑みを浮かべて近づくと唯は悲鳴に似た声を放った。

 「ち、近寄せないで!」

 「そうは行くか?大暴れしたお仕置きをしてやるぜ」

 松井が身を乗り出して来ると唯は涙声になって更に後に後退した。

 「私をどうするつもりなの?お金が目的なのでしょう?」

 「金なんかいらないぜ。アイドルの椎名唯の全てが目的なんだ」

 三枝が事も無げに言い放った事で唯の顔面は蒼白になった。この悪魔たちは自分の身体だけを狙っているのだ。唯は全ての望みを失ったようにその場に膝を付いてしまった。

 「観念したか?アイドルさんよ」

 松井に顎を掴まれた唯の視線だけはまだ負けてはいなかった。

 「あんたたち、こんな事をして許されると思ってるの」

 唯の物言いが余りにも生意気だったので松井はその強張った頬を引っ叩く。

 「小便垂らしが生意気なこと言うな」

 松井と栗山に両腕を取られた唯は三枝の前に引き立てられた。

 「唯さん。初めまして、私がこの館の主、三枝と申します」

 三枝が慇懃に頭を下げても唯は悔しさを噛み殺すような視線を辺りに放っている。隙あらばまだ逃げ出す構えを崩していない。

 「あなたは今日から私たちの奴隷となったのです。これからは毎日、楽しく暮らしましょう」

 「だ、誰が奴隷なんかなるもんか」

 唯はカッとしたのか三枝に蹴りを放ったが松井に腕を引っ張られたためそれは虚しく空を掻いてしまう。

 「相変わらず、元気なお嬢さんだ。奴隷には裸になってもらうのがこの屋敷の慣わしだ。覚悟するんだな」

 打って変わって乱暴な口調になった三枝に宣言された唯は息を飲み込むしかなかった。孤立無援の状況で肌身を晒す事など唯は恐ろしくて想像も出来ないのである。

 悪魔たちは手に落ちた生贄をじっくりと賞味する興奮に震えながら徐々に唯を追い詰めようとしていた。

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