栗山御殿

 季節は流れた。長い冬が終わり、春が過ぎ、汗ばむ季節になった翌年、五月の初めに栗山が三枝邸に程近い場所に建設していた建物が竣工した。総工費一億円を掛けたそれは男の夢を実現した殿堂として聳え立っていた。

 女子高生集団失踪事件は人々の記憶から薄れつつあった。そればかりか三枝邸が取り壊されればその痕跡さえ失われようとしている。

 その日、栗山は三枝と絵里を誘って完成したばかりの建物を見せようとしていた。

 三枝は一度だけ建設現場を訪れたことはあったが完成した建物を見るのは初めてであった。

 敷地の中に入ると鉄筋で出来た三階建ての威容がそこに現れた。前庭から見える建物は窓が少なく、要塞のような印象を見る者に与えている。前庭は草を刈り取っただけでろくな整備がされておらず、突貫工事で建設が行なわれていたことを思わせていた。

 「ほー、随分、様子が変りましたな」

 「はい、奴隷たちの逃亡を防ぐためにあのような高いフェンスを張り巡らしました」

 建物と裏庭に隙間に建てられた3メートルはあろうかと思われるフェンスを栗山は指差した。

 「建設費が当初予定を大幅に上回りましたが、新たな出資者が現れましたのでこのようなものが出来ました」

 満足げな笑みを浮かべる栗山の顔を三枝は怪訝な表情を浮かべて覗き込んだ。

 「新たな出資者?」

 「ええ、いずれお連れしますが、我々の趣旨に賛同して仲間に加わることを決断した方です。では参りましょう」

 栗山は先に立って玄関の扉の暗証番号を押し、ドアを開いた。

 彼らの前にもう一つドアが現れた。これも暗証番号を使って突破すると本当の靴脱ぎ場が現れる。

 「内部からは一度の操作でドアが開かれるようになっています。逃走を防ぐために完璧なシステムを考えました」

 栗山がドアを開くとさらなる鉄の扉が現れる。そして、右手にエレベーターの扉があった。

 「今日はまずエレベーターで3階まで行きましょう」

 ここも暗証番号を押さないとボタンが押せない構造になっている。

 「まるで秘密基地ですな」

 三枝は感心したような顔で頷いた。絵里は驚きより恐怖の方が先走っている。栗山の妻に納まったとはいえ、彼女は未だに奴隷の一人だという思いが拭えなかった。

 エレベーターで三階に到着するとそこは広々とした空間が広がっており、南向きの窓から日差しが眩しいほど差し込んでいた。

 「うあ〜〜。凄い眺めね」

 窓際に寄った絵里はその景観に驚きの声を放った。

 「ここをアトリエにして思う存分、筆を振っていただきたいのです」

 栗山の言葉に三枝は大きく頷いた。今までの倍以上もあるアトリエのスペースに三枝は言う言葉が見つからなかった。

 「一応、奴隷たちにポーズを付けるために鎖も用意して有ります」

 栗山の指差した天井には剥きだしのコンクリートの天井にパイプが二本通り、滑車を通じて鎖が垂れ下がっている。

 アトリエの奥に進むとサンルームが有り、そこにはフィットネス機器も用意されていた。奴隷たちの健康にも気を使う栗山であった。

 「ベランダに出てみましょう」

 栗山がガラス戸を開けるとまだ冷たさが残る山の風が吹き込んできた。

 そこは広々としたスペースが確保されており、テーブルに椅子まであった。

 「ちよっとしたパーティーも開けるようにしております。下りてみまはょう」

 乱雑に置かれている安物のサンダルを引っ掛けて一堂はベランダに下りた。

 「更に上もあります」

 栗山が建物脇の階段を上るとそこにはなんとヘリポートまで用意してあった。さすがに三枝は声も出ない。

 「一応、VIP用にこんなものまで作ってしまいました。使うかどうか判りませんけどね」

 「驚いたわ。栗山さんって凄い人なのね」

 吹き付ける強い風に目を細めながら絵里は感嘆しながら得意げな夫を見守るのだった。

 「あっ、プールがある」

 裏庭を指差して絵里が叫んだ。

 「露天風呂さ。温泉が引いてある」

 栗山の説明に絵里も三枝もただただ呆れるばかりであった。

 三階に戻った栗山はアトリエの奥にあるドアを暗証番号を入れて開いた。

 「ここが三枝さんと忍さんの部屋になります」

 「ほう、素晴らしい眺望ですな」

 三枝は満足そうに頷いた。割と広い内部には既にダブルベッドとテレビが配置されていた。

 「何、あれ?」

 絵里はびっくりしたように部屋の片隅のガラス張りの一角を指差した。そこには便座があったのだ。

 「忍さんの排泄する姿をご覧になりたいでしょうからガラス張りにしてみました」

 栗山の言葉に三枝は腹を抱えて笑った。

 「これはいい。忍も大喜びでしょうね」

 二人を驚かせた栗山は得意顔になって階段を使って二階に下りた。

 二階には小部屋がいくつも並んでいる。

 「ここが君の部屋だ」

 背中を押されて内部に入った絵里は思わず歓声を上げた。洋室の部屋にはベッド、テレビに加え、小さなキッチンまであり二人分の食器まで用意されている。今までの暮らしから比べれば夢のようだと絵里は思った。

 カーテンで仕切られた一角には洋式の便器があった。カーテンを開けば用を足している自分の姿は丸見えになることに絵里は苦笑する。

 二階には他にモニタールーム、景観抜群の浴場、タイル張りのブレイルーム、客用の個室が並び、最後に祐子の部屋を栗山は案内した。

 「ここは和風なのね」

 畳の敷かれている部屋に絵里は感心したように呟いた。ここにキッチンがあることにちよっぴり嫉妬を感じた絵里だった。

 「こちらのトイレは和式なんですね」

 こちらはガラス張りの和風トイレが設置されている。押入れを開ければ二組の夜具が準備されている。

 「ねえ、私の部屋にも化粧台のような物がないのは寂しいわ。三枝さんの部屋にもなかったじゃない」

 絵里が不満そうな顔をしたので栗山は思わず頭を掻いた。

 「すまん。気が付かなくて。さっそく手配する」

 一堂は二階からエレベーターを使い、一気に地下に降りた。扉が開くとまず巨大なガラスで出来た奴隷たちの居室が目に付いた。

 「おお、まるで水族館だな」

 三枝はその威容に感心しきりであった。二十畳程度の広さの居室の周囲は全てガラスで仕切れら、カーペットが敷かれている。そして、剥きだしの洋式トイレと洗面所がその片隅にあった。そして、反対側には完全に個室化しているトイレがもう一つあった。

 「ここもトイレなんでしょう?」

 絵里が珍しく普通のトイレを栗山が設置したことに意外な顔をしていた。

 「中が鏡張りになっているのさ」

 「まぁ」

 絵里は栗山の趣味の悪さに思わず口を覆った。

 「それだけじゃないぜ」

 栗山はガラスのドアを開いて内部に入るとトイレのドアを開けてみた。

 小型のモニターに内部の様子が映し出される。一つのカメラは正面から一つのカメラはなんと、便器の中に設置されている。和式のため用を足す奴隷の内腿がはっきりと映し出される設計になっている。中は鏡張りという趣味の悪さだった。

 「如何です」

 戻ってきた栗山に聞かれても三枝は驚くばかりだった。

 「このトイレのドアは一回、使用すると一時間は開かなくなります。それでも我慢できない奴隷はあそこのトイレを使うということになります。また、ドアを開けると自動的に録画が開始され、その模様は部屋のテレビでご覧になれます」

 栗山の言葉に三枝はまたもや苦笑しなければならなかった。

 奴隷たちガラスの居室とは別に壁際には三つの檻が用意されていた。徹や群れに加えたくない奴隷を収監するために栗山は用意したのだ。檻はコンクリートで区切られており、隣の奴隷の様子は判らないようになっている。

 「こんなものもあります」

 栗山は片隅の床の蓋を外して三枝と絵里を呼び寄せた。

 「聞き分けのない奴隷を懲らしめるために作ってみました」

 「おお、これは!」

 三枝は驚きの声を放ち、絵里はその恐ろしさに口を噤んだ。

 内部は三メートル程度の深さのあるコンクリートが剥きだしのマンホールを想像する小部屋だった。蓋を閉められれば暗闇の世界に隠蔽される。こんな場所に入れられたら一分と経たずに泣き出しててしまうと絵里は思っていた。

 「絵里、入ってみるか?」

 冗談めかして栗山が言っても絵里は真顔で首を振るだけであった。

 この地下室には更に奴隷用のシャワールーム、栗山がコレクションを移動させた衣裳部屋、そして、メイクルームまで完備されている。

 また、準奴隷用の二人部屋、二つもこの階層にあった。

 階段を上って一階に辿り着いた栗山は暗証番号を入力してドアを開いた。

 「地下からの出入は厳しく管理されています。まず、出ることは不可能でしょう」

 一階はに出た絵里と三枝はその豪華さに再び舌を巻かねばならなかった。まず二階に上がる階段には三枝の描いた絵が何枚か並べられ異彩を放っている。そして、一階はそのままパーティールームが広がっていた。

 正面には小さなステージとライトも完備されている。もちろん、カラオケ機器もあった。

 「ここでカラオケ大会やるのね。楽しそう」

 無邪気に笑う絵里を見て二人の悪魔は顔を見合わせた。

 栗山の考えステージであるそんなもののためにだけ設置されたわけではもちろんない。ステージの壁を倒せば女体を固定する台が現れ、頭上のレールには鎖が垂れ下がっているのだ。

 「あれは何?また、トイレなの?」

 絵里がステージ脇のガラス張りの小部屋を指差した。

 「入ってみるといい」

 栗山が壁のスイッチを押すと一枚の鏡が半分ほど上に上がった。絵里は中に入ると内部は全面鏡張りになっているのに驚いた。鏡が降下し絵里はその試着室程度の小部屋に閉じ込められた。

 絵里は大声を張り上げてみた。栗山たちにはその声は殆ど聞こえない。

 次の瞬間、絵里は驚いた。二方の鏡が溶けるように消えうせ、三枝と栗山が笑っていたからだ。

 「何、これ?」

 ドアが開かれ出てきた絵里は顔を強張らせている。愛していても栗山が女性を虐げることに相変わらず情熱を注いでいることは絵里も残念に思うところだった。

 「これは誘拐してきた女を一時的に閉じ込める場所だ。鏡の小部屋とでも言おうかな。中の女は外から見られていることを知らないから堂々と色んなことをすると思う。それを見て楽しむんだよ」

 そんな絵里の心情を理解できない栗山は得意そうになってその仕掛けを話している。絵里の気持はなんとか答えを見つけ出そうと栗山の心の中を彷徨っていた。

引越し

 それから、一週間後、三枝邸の引越しが始った。最初に奴隷たちが移されることになり、栗山の車と松井の運転する車の二台に分乗して、深夜に搬送が行なわれた。

 奴隷たちは褌にTシャツという軽装で車に揺られている。一様に彼女たちの表情は暗かった。自分たちの痕跡がまた一つ消されてしまうことで助け出される可能性が更に薄れるからであった。

 奴隷たちの願いも虚しく、何事も起こらず二台の車は栗山御殿の敷地の中に滑り込んだ。厳重な鍵を開け、玄関に辿り着いた奴隷たちは先に着いていた祐子と絵里によって足を拭われ、一階のホールに集められた。

 その建物の豪華さと冷徹さに奴隷たちはただ息を飲むばかりだった。

 8人の奴隷たちを前に栗山が立った。

 「ここで、着ている物は全部脱いで下さい。それから地下室に案内します」

 もう、全裸でいることに慣れている彼女たちはそんな命令に逡巡する間もなく、衣服をすっぽりと脱いだ。

 絵里に先導されて地下室に降り立った彼らは巨大な水槽を連想させるガラスの部屋にまずは圧倒された。

 「ここが今日から君たちの生活するガラスの檻になる。見ての通り枕も毛布もある。水だって好きな時に飲める。トイレも好きな時に行ける。ただし、向うのドアつきのトイレは一度使用すると一時間たないとドアは開かない。我慢できないものはこっちの囲い無しのトイレを使うように」

 ドアが開かれ奴隷たちはゾロゾロとガラスの檻の中に入り込んだ。以前の地下室から比べたらそれは劇的な変化と言って良いだろう。栗山は衣服を与えることを主張したが三枝はそれに強硬に反対した。

 さっそく弘美がトイレに行こうとするのを恭子が制した。

 「あなた、小なんでしょう。こっちは大を優先させてよ」

 素直に弘美は頷き、恭子がドアを開けた。鏡張り、監視カメラつきのトイレに悲鳴を放ちながらもドアが閉められた。暗黙のルールが瞬く間に出来上がったようである。

 「なんだか修学旅行に来たみたいにはしゃいでいるじゃない。あなたのに感謝するんじゃない?」

 絵里は楽しそうに毛布に包まり、ワイワイと話している少女たちを見て笑顔を浮かべている。栗山もそんな少女たちを見て満足の笑みを洩らしていた。彼女たちを劣悪な生活環境から救いたいと常々思っていた栗山の考案は見事、奴隷たちに受け入れられたのである。

 「まあ、女子刑務所程度の待遇になっただろう」

 栗山は絵里に向かってそんな事を言って笑うと新しい住処の中ではしゃいでる奴隷たちを見るのだった。

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