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ホメーロスの叙事詩のヘクサメトロン韻律構造


  ホメーロスの叙事詩の「長短短」英雄脚のヘクサメトロン構造について、簡単な例で、説明します。『イーリアス』の冒頭四行について、韻律構造を説明します。あまり、具体的に説明されることがないからです。

  英語では、ホメーロスの叙事詩の韻律を、英雄詩体(Heroic verse)と呼び、英語・ドイツ語での詩で、「弱強」五脚で一行となっている詩を、またこの名で呼びます。しかし、似ているのは名前と、見かけの構造だけで、本質的に別のものです。(他に、フランス語の詩で、「弱強」または「抑揚」脚で、一行六脚のものを、アレクサンドランとか、英雄詩体と呼びますが、これもホメーロスの韻律とは全然違うものです)。

    Μηνιν αειδε, θεα, Πηληιαδεω Αχιληοs
    ουλομενην, η μυρι' αχαιοιs αλγε' εθηκε.
    πολλαs δ' ιφθιμουs ψυχαs Αιδι προιαπσεν
    ηρωων, αυτουs δε ελωρια τευχε κυνεσσιν

    Meenin aeide, theaa, Peelee-iadeoo Akhileeos
    oulomeneen, hee myuurhi' akhaiois alge' etheeke,
    pollas d' iphthimous psyuukhaas Ha-idi pro-iapsen
    heeroooon, autous de helooria teukhe kynessin

  これを、単語に即して読むと:

    メーニン・アエイデ,テアー,ペーレーイアデオー・アキレーオス
    ウーロメネーン,ヘー・ミューリ・アカイオイス・アルゲ・エテーケ
    ポルラス・ディプティムース・プシューカース・ハイディ・プロイアプセン
    ヘーローオーン,アウトゥース・デ・ヘローリア・テウケ・キュネスシン

  こうなって、どこがリズミカルか分かりません。しかし、続けて読むと、次のようになるのです:

    メーニナ|エィデテ|アーペー|レーイア|デォーアキ|レーオス|
    ウーロメ|ネーネー|ミューリア|カィオィ|サルゲエ|テーケ|
    ポルラス|ディプティー|ムー/ス/プ/シュー|カーサイ|ディプロイ|アプセン|
    ヘーロー|オーナゥ|トゥー/ス/デヘ|ローリア|テゥケキュ|ネスシン|

  「ムースプシュー」は、「ス」は子音「s」で、「プ」も子音「p」で、実際の音は、「ムーシュー」のように聞こえます。また「トゥースデヘ」は、「ス」は、子音「s」で、実際の発音では、「トゥーデヘ」のように響きます。従って、四行全体は次のように響きます:

    メーニナ|エィデテ|アーペー|レーイア|デォーアキ|レーオス|
    ウーロメ|ネーネー|ミューリア|カィオィ|サルゲエ|テーケ|
    ポルラス|ディプティー|ムーシュー|カーサイ|ディプロイ|アプセン|
    ヘーロー|オーナゥ|トゥーデヘ|ローリア|テゥケキュ|ネスシン|

  こうして、「長単単」または「長長」という形に、一つの脚が構成されていて、このスタイルで、一行、六脚の形で、延々と続いて行きます(上のカタカナを「日本人が読む」と、子音部分と、アクセント位置の違いはあっても、ホメーロスの叙事詩の朗読と、ほぼ同じになります)。

  古代ギリシア語には、高低アクセントがあり、上ではアクセント位置を示していませんが、固有の位置にアクセントがあり、アクセントのパターンは、「長単単」ヘクサメトロン韻とは別にあります。こういうリズム(律動)構造で進行する叙事詩は、ラテン語でも真似はできませんし、西欧語でも、見かけ上、六脚というように似せても、実際の発音律動は全然違っています。ホメーロスに近い律動を表現できるのは、日本語がそうで、おそらく日本語だけだと思えます。

  奈良時代初期の柿本人麻呂の長歌は、二音と三音を基礎にした、律動進行を持っていますが、これは、メトロン構造からは、実体的に、ホメーロスのメトロン(古典ミーター)に近いものだと言えるのです。英語の文章を、カタカナで書いて、これを日本語のように発音すると、英語での実際の発音と、もの凄くかけ離れたものになります。しかし、古代ギリシア語の詩だと、カタカナで書いて、日本語で読むと、これが一番、古代ギリシア語の発音に近くなるのです。

  例えば、ホメーロスの『イーリアス』の最初の行は、日本語だと:

    メーニナ|エィデテ|アーペー|レーイア|デォーアキ|レーオス|
    うたえよ|女神よ|ペレウス|息子の|アキレの|怒りを|

  アクセントを無視すると、丁度、こういう感じになるのです。日本語だと、古典ギリシア語の「長短短」は、短音四音に対応し、日本語にも高低アクセントはあるので、子音連続が日本語にないことを除くと、ほぼ、同じような韻律と響きになるのです。



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